第49話 姉妹は南へ! 編(4)
二人は運ばれてきたカニの食べ方を巡って討論し、その後は露天風呂で、全身浴派と半身浴派に分かれてダイエット談義に熱弁をふるいあった。
そして、夜のお楽しみと言えば……
「枕投げじゃないのかい! ちょっとやめてよ、やめなさい」
「お姉ちゃん、逃げてばっかじゃん! 意気地無し!」
「嫌だって、離れてよ、ケガするでしょ」
「意気地無し!」
ユキは、嫌がるサチコの足にしがみつき、タックルを決めようと試みるが、姉も必死に倒れまいと抵抗する。
「いいかげんにしなさい!」
サチコはそう言った瞬間に力尽きて、布団の上に倒れ込んだ。
そのまま二人は眠りに落ち、トラブル続きだった初日を終えた。
そして、羽目をはずした姉妹旅も最終日の夜となり、二人は明かりを消し、布団の中へと入った。
「お姉ちゃん、すごく楽しかったよ、ありがとう」
「あっという間だったね、また機会があったら、どこか旅行しようか」
「うん、そうだね」
「ところでさ、そろそろ家に帰ったほうがいいんじゃないの」
「明日、帰るじゃん」
「違うよ、ワタシん家じゃなくてジュンペイくんの所にだよ」
「……まだいいよ」
「まだいいって、時間が経てば経つほど帰りづらくなるんじゃないの?」
「……大丈夫だよ」
「ジュンペイくんのこと、嫌になったの?」
「そんなことはないけどさ……なんか気まずいし……」
「ジュンペイくんのことを拒んだっていう、あの夜の事が原因でここまでずるずると引きずっているんなら、正直に自分の気持ちを伝えたほうがいいんじゃないの?」
「……プロフィッショナルな夫婦を目指そうとか言った言い出しっぺが、実は違う理由でしたみたいなこと、今更言える訳ないでしょ」
「普通だったらそうなのかもしれないけど、ユキのキャラだったら大丈夫だと思うよ」
「ちょっとどういう意味!」
「別にバカにして言っている訳じゃないよ。そのことには触れずにそのまま夫婦生活を続けたとしても、結局は溝は埋まらないままじゃないのかなって」
「それはそうだけど……せっかくの旅行なんだし、その話は帰ってからにしよう」
「そう言うんだったらそうするけど、帰ったらちゃんと話し合おうね」
「わかったよ……ねぇお姉ちゃん、ワタシの願い叶えてくれる?」
ユキの口調が急にシリアスに変わった。
「何? ワタシに出来ることだったら考えてみてもいいけど……」
「ホントに、じゃあ行くよ」
ユキはそう言うと暗闇のなか起きあがり、スタンバイすると明りを点けた。
「なに? ……ちょっと痛いって! やめてよぉ」
「旅の最後はやっぱ枕投げでしょ~。って痛い! ちょっとお姉ちゃん、こんなの頭に当たったら死んじゃうでしょ。ちょっとは考えてよ 」
「うるさい、ペットボトルのキャップが当たったぐらいで死ぬわけないでしょ」
「じゃあワタシだって……」
「……バカ! 投げたらバチ当たるって」
ユキが茶柱の立った湯飲み茶碗の柄が入った布製のスリッパを投げ、姉妹での旅は最後の盛り上がりを見せた。
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