第30話 ユキの決意編(6)

「準備完了!」



時刻は日付をまたごうとしていた。この時間帯には似つかわしくないハツラツとした声が家の中に響き渡ると、ユキは荷物の最終チェックを終え、寝室から出てきた。



「なんだよその荷物は……」



ユキは、ファスナーが閉まりきらないほどの荷物を詰め込んだボストンバッグを肩にかけ、二つのキャリーケースを左右の手に持ってジュンペイの居るところへとやって来た。



「……」



ジュンペイはユキの荷物まみれの姿を見て、“家出した少女が二、三日後に帰ってくる”映像ではなく、“夜逃げをし、近所の人たちの前から永久に姿をくらます、“四人家族のうちの中の一人の女の子”の姿が頭の中に浮かんだ。彼の心は不安でいっぱいになった。



「タクシー来たのかな?」



「まだ来てないけど、もう少しで来ると思う。なにも車で送っていくのに?」



「ううん、大丈夫だよ。ジュンちゃん明日仕事なんだし、それに、タクシーのほうが雰囲気出るしさ」



間もなくタクシーが到着すると、ジュンペイは外に荷物を運び出し、車のトランクの中へと詰め込んだ。



「ありがとう。じゃあ、行ってきます」



「おう。いつでも帰ってこいよ。待っているからな」



「うん」



「サチコさんによろしくな。じゃあ、気を付けて」



ユキが車の後部座席に乗りドアが閉まると、彼女はガラス越しに、笑顔で手を振った。それに対してジュンペイも手を振ってはいるが、表情は寂しげである。



車が走り出し、暗闇の中、街灯の光りでうっすらと見えていた彼女の後ろ姿はだんだんと無くなっていった。ジュンペイは、車が見えなくなった後もしばらくの間、ユキの残像を感じていた。



「寒いなぁ……もうすぐ十二月か」



ジュンペイはポツリとつぶやくと、家の中へと戻った。そして、センチメンタルになっている今の心は、はたして、一人で立ち直ることが出来るのか自信がなかった。彼は、とりあえずリビングのソファーに座り、いていたテレビを消した。



「……」



家の中は静寂せいじゃくに包まれた。その静けさは、ユキが居なくなったということを、彼に現実の事としてつきつけているような気がした。ジュンペイは、この雰囲気にいたたまれない気持ちになり、気分を紛らわそうと、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。



「友よ、君に賞味期限はあるのかい?」



缶に語りかけた後、飲み口を開けた。キレのある音が部屋の中全体に響き渡り、彼の中の寂しさをより増幅させた。

 




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