第20話 伝説の味編(2)

「……」



「ちょっと、急にだまんないでよ」



二人の間には、しばしの沈黙がやってきた。



「……なにかあったの?」



沈黙が去ると、ユキは蚊の鳴くような弱々しい声できいた。



「結婚生活も長くなると、いろいろと問題も出てくるのよ」



「答えになってない」



「そうだね、答えになっていないよね……結婚してもうすぐで四年になるのかな。理由は、お互いに我が強くて、喧嘩なんてしょっちゅうしていたのかな。それでも最初の頃は、決して自分の意思を曲げない彼がすごく好きだったんだよ……でもさ、その好きだったところが、段々とうとましく思うようになってきて、気がついたら相手の欠点ばかりが目につくようになっていて、いつのまにか愛だとか好きとかっていう気持ちを無くしちゃって……ここ一年間くらいは、結婚っていう契約のために、お互いに我慢して、無理して同じ空間で暮らしていたっていうのが実情かな」



「それで我慢出来なくなったから離婚するっていうこと?」



ユキは少し怒った表情である。



「うん、そうだよ。お互い仕事持ってるし、これで子供が居たら、また違った話しになっていたのかもしれないけどね」



サチコは、もう結婚生活にはなんの未練も無いといったような涼しげな表情で言った。ユキはそんな姉の姿がカンに障り、サチコの飲みかけの、中身の入ったコーヒーカップを取り上げた。



「ちょっとどうしたの?」



「なんでそんな晴れ晴れとした顔が出来るの! お姉ちゃんはそれでいいの!?」



ユキがきいたことに対し、サチコは黙ったまま、妹の飲みかけのコーヒーカップを手に取ると、飲み干した。



「ちょっとユキ、砂糖入れ過ぎだよ!」



「ごまかさないで!」



ユキは強く怒鳴りつけるように言った。



そんな妹の姿を見て、サチコは優しく微笑んでユキの目を見た。



「ありがとうね。本気で私たちのこと心配してくれているんだね……今日までにさ、彼とは何度も話し合って、悩みに悩んで、お互いに納得したうえで出した決断なの。これから先のことを考えたとき、こうすることが、お互いに幸せなことなんじゃないのかって……」



ユキは姉から目をそらし下を向いた。



「でも、私たちだけで勝手に決めて離婚するっていうのは無責任だと思って。お父さんやお母さん、ユキには理解してもらいたくて」



「……パパとママはなんて言っているの?」



ユキは下を向いたまま、ふて腐れるよにしてきいた。



「まだ話していないよ。どうしても一番最初にユキに話しておきたかったの」



サチコの言葉を聞いたユキは、最初に相談してくれたことが嬉しかったのか、両手でつかんでいた姉が飲みかけていたコーヒーカップをもとの位置に戻した。



「まぁ、まずはお父さんとお母さんに先に報告するのが筋だとは思ったんだけどさ、なんていうか……あんたのことが大好きだからさ……」



サチコは照れくさそうに言った。



「……まぁ、仕方ないのかな。そうすることでお姉ちゃんが幸せだっていうんなら、ワタシはお姉ちゃんの味方になる」



ユキも照れくさそうにして姉に賛同すると、テーブルに置いてある砂糖の入った容器を手に取った。そして、なにも言わずに姉のコーヒーの中に、スプーン四杯分を入れ足した。



「ちょっとあんた、なにしてるの、そんなにいらないって」



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