第53話
何度も貫かれ、体力も限界で、死んだように眠るとはこの事だろう。
私の胸辺りに顔を埋める、虎牙君の頭を抱えて眠る。
規則正しい寝息を立てる虎牙君の頭を一撫でし、起こさないようにベッドから抜け出そうと、体をゆっくり動かした。
眠っているのに、虎牙君は起きてるのかと聞きたくなるくらい、腕の力が強くてなかなか抜け出せないから、こうやってゆっくり抜け出すのだ。
今日は幸い腕枕じゃないから、抜け出しやすそうだ。
ベッドの端までやって来て、着る物をキョロキョロと目で探す私のお腹に、太い腕が回され、再びベッドへ引きずり込まれた。
「何処行く気だ……勝手に離れんな……」
目を閉じたまま、私を腕の中に収めて満足そうな虎牙君が、また寝息を立て始める。
こうなったらもう私の力ではどうにも出来ないのが分かるから、大人しく虎牙君の胸に顔を埋めて目を閉じた。
次に目覚めた時、私の目に一番に入って来たのは、虎牙君の優しい表情だった。
「起きたか?」
髪を撫でる手が気持ちよくて、自ら頭を擦り付ける。
「ふっ、可愛い奴。甘えてんのか?」
額にキスが落ち、目が合う。
窓から入る光でブルーに光る瞳が綺麗で、虎牙君の頬に手を伸ばして触れ、目元を親指でなぞった。
「ほんとに綺麗……宝石みたいだね……」
目が少し開かれ、そのまま細められて微笑んだ。
「お前と琉依くらいだよ、んな事言うのは」
こんなに綺麗な目を、悪く言う人がいたのは、虎牙君に聞いていた。
気持ち悪いなんて、ありえなくて、悲しくて、泣いてしまった。
「俺の為に泣いてくれんの? お前を泣かせるのも、笑わせるのも、気持ちよくさせんのも、全部俺だけの特権だな」
虎牙君はそう言って、何処か嬉しそうに笑った。
「なぁ……まだ早ぇかもしんねえけどさ、お前の人生全部、俺にくんねぇ?」
一瞬、何を言われたのか分からず、固まってしまう。
私の人生って、どういう意味だろう。
「それって……どういう……」
「俺は、お前以上の女はいねぇと思ってるし、考えらんねぇ。だから、俺はこれから先の人生全て引っ括めて、お前の全部が欲しい」
私の予想が合っているなら、多分これは彼なりのプロポーズなのだろうか。
あまりに突然の事に、固まってしまう。
私達はまだ高校生で、胸を張って大人だとは言えないような子供であり、でも何も分からない子供かと言われたらそうでもなくて。
ただ、虎牙君の言う事に共感する部分もあるわけで。
先の事なんか分からないけど、出来る事なら私だって、ずっと虎牙君の傍にいたい。
何も考えず、簡単に彼の腕に飛び込んでいけたら、どれだけいいだろう。
頭の中に父を思い浮かべながら、私はどう返事を返そうか悩んでいた。
「んな不安そうな顔すんな。急いで決める事でもねぇし、今すぐじゃなくていい。ゆっくり考えててくれ」
私は頷くしか出来なくて、歯痒くて、虎牙君の胸に顔を埋めた。
「まぁ、嫌ってわけでもなさそうってのが分かっただけで今はいい」
言って私の頭を撫でる虎牙君の優しい言葉に、泣けてくる。
この手を何も考えず、安心して取れる未来を想像しながら、涙を悟られないように目を閉じた。
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