第28話

私の手首を掴んで、立ち上がる。



「それ、俺が外す」



何でこんなのを外したがるのか。



とりあえずエプロンの紐のリボン部分を解かれる。



それだけなのに、何故こんなにドキドキするんだろう。



相手はあの、獣織君だというのに。



「今までなんでこんなエロいもんに気づかなかったんだろうな」



何と答えればいいのやら分からない。



「あ、俺お前に用事出来たわ」



彼が私に求める“用事”に、体が自然と固くなる。



「家に来て、飯作れ」



「……へ?」



「だから、飯だよ」



また唐突な話に、思考が停止する。



私が獣織君に、ご飯を作る日が来るなんて、誰が予想しただろうか。



「な、何が……食べたい、ですか?」



作れる物に限りはあるけど、と付け加える。



「和食なら何でも。お前に任せる」



獣織君は和食が好きなのだろうか。



作り置きと、父のお酒のストックの用意を確認して、私は父に読むかどうか分からない書き置きを残して、獣織君と家を出た。



買い物をする為にスーパーに寄らせてもらう。



私が持ったカゴを無言で取られてしまう。



獣織君とカゴが妙な違和感を醸し出していて、少し笑ってしまう。



「っ……何、笑ってんだ」



「ごっ、ごめんなさいっ……」



不機嫌そうに眉を寄せた獣織君に、まずいと思ってすぐに謝る。



体が、自然と固くなるのは、もう染み付いてしまっているみたいで、また顔が見れなくなる。



「べ、別に、怒ってねぇっ……そんなに、怯えんな」



そう言って、乱暴に髪をぐちゃぐちゃに混ぜられる。



やっぱり今日の獣織君は少し変だ。



そんな“変”が重なり、困惑しながらも買い物を済ませる。



獣織君の家に行く時は、ほとんど記憶がない状態で連れて来られるか、嫌で仕方なくかのどちらかだったから、何か新鮮だ。

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