第八章
第42話
震える手でスマホを取ろうとスカートに手を伸ばした。
その時、座り込む私の視界が、大きな影で暗くなる。
「おい、誰の許可得て触ってる」
「いでででででっ! 痛ぇってっ! 折れちまうっ!」
私の髪を掴んでいた男の手首を掴む大きくてゴツゴツした男らしい手も、低く唸るみたいに迫力があって体の奥に響くみたいな声も、鋭く細められたブルーの入った目も、その何もかもが私を安心させる。
「颯夏、耳塞げ」
言われ、すぐに両耳を塞いで体を小さくする。
「ぐ、ぁあああああっ!」
耳を塞いでいても分かるくらい、酷く苦痛な悲鳴が響き渡る。
恐る恐る目を開けると、腕を抑えながらのたうち回る男と、残りの男達を次々と殴り飛ばす獣織君の姿。
怖いけど、凄く、格好よくて。
大きい体なのに、まるでバネみたいに軽々と右往左往するのが、不思議で。
喧嘩の場面なんて怖いだけなのに、獣織君から目が離せない。
さっきからずっと、胸が痛いくらいに高鳴っている。
獣織君がこちらに来る姿すらも、胸を熱くさせる。
「大丈夫か? 怪我は?」
「だ、大丈、夫、です……あの、ありがとう、ございまっ……ふわぁっ!?」
体が浮いて、抱き上げられる。
「頬、赤くなってんな……あのゴミ、思いっきり殴りやがったな……」
頬を手で包んで、親指で撫でて頬にキスをされる。
「あ、あの、お、降ろしっ……」
「駄目だ。怖かったんだろ? 体、震えてんじゃねぇかよ」
でも、だって、さっきまであの女子に触れていた手で触られるのが、何故か妙に嫌で。
だから、私は少し強めに抵抗する。
「だ、大丈夫っ、ですっ! お願いだから、降ろしてっ!」
手を添えた肩を叩いて暴れる私に、驚いたみたいに綺麗な目が見開かれる。
「暴れんな、落ちんだろーが。ったく、今日はやたらとワガママだな。泣きそうな顔して、何が嫌か、ちゃんと言ってみ」
怒る訳でもなく、何なら声色は優しく甘やかすみたいで、額、目元にキスが落ちる。
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