第35話

触れるだけだったキスが、後頭部を固定されて激しいものになる。



「んっ、んぅっ、ゃ、ンんっ!」



琉依君はただ、乱暴なキスをするだけで、何も言わない。



力が適わず、押し返しても意味はなくて。



体ごと抱きすくめられ、身動きが取れない。



彼は私の何にそんなに執着するんだろう。



「る、ぃ、くっ……ゃっ……ンっ、まっ、て……」



「っ、待たないよ……んっ、俺も、本気だから」



こんな事しても、意味はないのに。多分彼も、それは分かってるんだろう。



彼は賢い人だと思うから。



そうじゃなきゃ、こんなに苦しそうな悲しそうな顔、しない。



唇が離れ、お互いが荒い息を吐く。



「っ、苦しめて……ごめんなさい……」



私が言うと、琉依君は苦笑する。



「はぁ……まったく、君のそういうとこが、ほんと好きだよ……」



彼の腕が、力をなくして体が離れた。



「行ってやって。アイツ、素直じゃないし、だいぶややこしいけど」



優しく笑う琉依君は、妙にスッキリしたように見えた。



私は琉依君に別れを告げ、彼を探して走った。



何処にいるかなんて分からないし、学校にいるのかすら分からない。



それでも、行かなきゃいけないと体が自然と動く。



キョロキョロしながら小走りに廊下を進むと、数人のヤンチャそうな男子がいるのが見えた。



私は少し勇気を出して、話し掛けた。



「あー、君さっき喧嘩に割って入ってた子? 獣織なら、あっち行ったの見たけど」



「体育館裏いんじゃん? 普段からあそこによくいっから」



にこやかに手を振る彼らにお礼を言って、体育館裏に急ぐ。



息を整え、ゆっくり足を動かす。



まだ少し怖いけど、間を空けて隣に腰掛ける。



「……何してんの、お前」



何をしてるのか、自分でもよく分からない。



ただ、傍にと思っている自分に戸惑ってはいた。



段差に座って空を見る獣織君の口元の血が目に入り、近くにある水道でハンカチを濡らして、獣織君の前にしゃがんでハンカチを口元に当てる。



「っ、何してる……そんなんいらねぇ」



「ジっとしてて下さい」



「……っ。ほんとお前、生意気……」



文句を言いながらも、私の行動を黙って大人しく受け入れるのが、何かちょっと可愛い。



「ニヤニヤすんな」



「し、してません……」



傷にハンカチを当てる私を、獣織君はジっと見る。

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