第38話
琉依君は私の前にしゃがむと、大きくて綺麗な手で私の頬を撫でる。
「俺、ちゃんと口説くから、よろしくね」
触れるだけのキスをされ、満面の笑顔を浮かべた琉依君が手を振って去っていくのを、ただ呆気に取られて見ていた。
後ろから舌打ちが聞こえて、恐る恐る振り返ると、眉間に深い皺を寄せて鋭い目をこちらに向けられ、ビクっとする。
「ったく、お前はいつんなったら学習すんだよ。隙だらけだっつんだよ」
「で、でも、今の、はっ……」
オドオドしながらも反論する私は、腕を掴まれて引き寄せられ、獣織君の膝に跨って座る形で収まってしまう。
顔が、近い。
「簡単に他の奴に触らせやがって……」
「あ、ごめっ……んンっ……」
後頭部に優しく手が添えられ、それでも抵抗出来ないくらいには力が入っていて、獣織君の両肩に置いている自分の両手にも力が入る。
纏わりつくみたいに唇が重なり、短くちゅっと唇が何度も触れ、ゆっくり舌が入ってくる。
その舌を歓迎するみたいに絡めて、獣織君の首の後ろに手を回す。
「ンっ、ふぁ……んぅっ……」
「琉依との感触はっ……俺が上書きしてやっから……しっかり俺のだけを覚えとけ……」
唇を舐めあげられ、ゾクリとする。
私の体は、もうとっくに獣織君をしっかり覚えていて、獣織君に触れられるだけで、体の奥が熱くなるのに。
これは、彼にだけ起こる反応だから。
そして、多分私はもう、獣織君から離れられなくなっているという証拠だ。
それを獣織君は知らないんだろうけど。
「声っ、我慢してんのもっ……悪くねぇなっ……」
「んっ、ふっ、ぁ……っぅ……」
突き上げられ、獣織君にしがみつきながら必死に喘ぐ声を我慢する。
いつ誰が来るか分からないような場所で、昼間からこんないやらしい事をしているのに、獣織君は楽しそうに首筋に強く吸い付いて来る。
最近抱かれる度に、獣織君が私に印を残していくようになった。
酷い時は噛み跡までたくさんついていて、あまりの多さに驚いてしまう時もある。
気づかない場所に付けられていて、焦る時もある。
余程自分のだと、知らしめたいのだろうか。
だけど、それを嬉しく感じてしまうのは、ただ情に流されているだけなのか、恋愛感情なのか。
ちゃんと知りたい。
「好きって何……か……難しい質問だね」
休み時間、私は友人数名と話をしていた。
彼氏のいる、明らかに私より恋愛経験のある友人に、自分の気持ちの正体を、答えを求める。
「正直、そういうのって、自分じゃないと分からないだろうし、言葉でどう言ってみても、最後は心が動くからね」
「そうだよね。私も気づいたら「あー、好きだなぁー」ってなってたし」
「一緒にいると安心したり、触りたいって思ったり、自分以外の女といたら嫉妬してムカつくし。そうやって怒ってても、ちょっと構ってもらったら浮かれちゃう」
「分かるー。自分が特別って扱われたら、嬉しくてつい許しちゃうんだよねぇー」
女子トークに花が咲いている中、私は自分の気持ちを頭の中で改めて整理する。
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