第七章
第37話
お弁当を広げて、天気のいい屋上で食べる。
ただ、ちょっと落ち着かない。
「たまご」
言われ、卵焼きをお箸で摘んで、獣織君の口に運ぶ。
片膝を立ててフェンスに背を預けて座る獣織君の、開かれた脚の間に座らされ、お弁当を獣織君に食べさせるという、何とも不思議な事になっている。
出会った時からあっさりしていて、何に対しても執着なんて言葉が似合わなくて。
数日、獣織君を見ていて思った事は、割と女の子によく声を掛けられている。
派手で綺麗な人が多くて、獣織君は割とそんな感じのタイプが好みなのかと、自分と比べてみたりもした。
「獣織君は……何で私を……」
地味で平凡で、取り柄なんてたいしてないし、特に面白くもないだろうに。
今までと違う女の子をという予想については、そういう気持ちになる人がいてもおかしくはないとも思うけど、それにしたって他にいくらでも可愛いくて退屈しない子はいるはずなのに。
考えれば考える程、分からなくなる。
女の子から声を掛けられた後は、決まって不機嫌になる。
私が何も言わずオロオロしているのを見て、獣織君は私の頭を掻き回して「うぜぇ」と舌打ちをした。
その言葉が私に向けられた言葉じゃないのは、最近分かって来た事だ。
私が逃げないと決めた日から、獣織君が凄く私に甘い気がする。
私の思い過ごしかもしれないけれど。
でも多分、私の予想は当たってる、はず。
「颯夏」
「っん……っ……」
ぶどうを口に入れた獣織君に呼ばれてそちらを向くと、唇が重なってぶどうの甘い香りと果汁が口内に広がる。
イチゴの時と同じように、口移しで与えられる。
「美味いか?」
私は顔が熱くなるのを感じながら、下を向いて頷いた。
「散々エロい事しといて、何でこんな事くらいで照れんだよ」
「そ、それとこれとは、その、別と言いますか……」
「何だそれ」
獣織君の柔らかく笑う姿には、まだ慣れない。
初めの頃とはまるで別人みたいで、戸惑ってしまう。
「うわぁー……見せつけてくれるねぇー、何かむっちゃ腹立つわぁー」
いつの間にかこちらに向かって歩いて来ていた琉依君が、嫌そうな顔をしながら私達を見る。
「で? 二人は付き合うの?」
「え?」
「あ?」
「……ん?」
三人の間に沈黙が走る。
「は? え、ちょっと待って……まさか、付き合って、ないの?」
「別に、付き合ってねぇ」
「……意味分かんねぇ……」
呆れたみたいに言った琉依君に、困惑したような獣織君が前に座った琉依君を見る。
「そもそも付き合うって何だ。今更何すんだよ」
お弁当箱を片す私の髪を弄びながら、獣織君は琉依君の方を怪訝そうな顔で見る。
「はぁ……まぁ、お前はそういう奴だよな……。颯夏、やっぱ俺にしない?」
「馬鹿言え。コイツは俺のだっつってんだろ」
「付き合ってもないのに、何が“俺の”だよ。よし、決めた。俺やっぱ諦めんのやめるわ」
言って、琉依君は立ち上がる。
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