第33話

〔獣織虎牙 side2〕



俺の家は正直金持ちだと自覚している。



ただ、俺はあの家で確実に“異物”だった。



父という名の男は、妻の他に何人もの愛人を作っていて、俺はその中の一人の子供だ。



俗に言う“妾の子”として生まれた。



クソ親父は外国の血が入っていたせいか、俺の目には少しブルーが入っている。



ガキの頃、それが原因で虐められるというのがベタだが、ありがたい事に俺は割と周りより体がデカかったから、そういうのはなかった。



ただ、俺の目を気味悪がる奴がほとんどだったから、皆が俺を避けていて、友人という友人はいなかった。



そんな時に出会ったのが、琉依だった。



琉依は最初から馴れ馴れしく、でもそれが俺には心地よくて、いまだに一緒にいる。



コンプレックスで嫌いだった俺の目を、最初に「格好いいじゃん」と笑ったのも琉依だった。



そして、アイツもそうだった。



「目……綺麗……」



寝ぼけながら、ふにゃりと表情を和らげて微笑み、呟く。



心臓が強く動いたような気がして、妙な気分になって胸の辺りを掴む。



だから、らしくない事をしたのかもしれない。



マンションに女を入れるなんて事はしなかったし、ましてや、ヤった後の女の世話をするなんて、考えもしなかった。



言われた事は聞かねぇし、何をするにもトロいし、すぐ泣くしで、面倒くせぇだけのはずだった。



なのに、俺は今目の前にいる、簡単に捻り潰せるような弱い存在を、愛でてしまっている。



妙に構いたくなるというか、放っておけないというか。



情でも出たのかと、自分の行動に笑う。



今まで相手にしてきた女の、どれとも当てはまらなくて、恐れて怯えてるくせに、全部が思い通りにならない女。



「女なんて……ただの穴だろ……」



言い聞かせるように呟いて、眉を潜めた。



言葉はそう言っていても、手はその女の髪を撫でているんだから、おかしな話だ。



コイツを、颯夏を帰らせた日、元々殺風景だった部屋が、無駄に広く、寒く感じる。



何をしてても、無意識に颯夏の香り、温もりを探している。



「柄じゃねぇな……」



自傷気味に笑った。



琉依と昼飯を食い終わり、何をするでもなく、屋上にいる。



「最近俺、颯夏に会ってないんだけど、虎牙は?」



「まぁ、ぼちぼち」



「えー、ズルー。久しぶりに会いに行こっかなぁー」



「駄目だ」



「はぁ? 虎牙にそんな権利ないじゃん」



「アイツは俺のだ。お前だけじゃなく、誰が相手でも手を出すのは許さねぇ」



缶コーヒーを片手に言う俺を見て、琉依が目を見開いている。



「へぇー、虎牙がそんな素直に独占欲出すなんて。まさか、ガチで惚れた?」



「馬鹿言え。俺のは独占欲じゃなく、支配欲だ。勘違いすんな」



「よく言うよ……。そんな訳わかんない理由じゃ、俺は引けないなぁ」



琉依が立ち上がる。



「好きになったとかなら、颯夏の気持ち聞いて引くかどうか決めるけど、そうじゃなくて、虎牙の勝手なら俺は颯夏を本気で手に入れに行くよ?」



「お前、アイツが好きなのか?」



「うん、好きだよ」



「……お前のそれ、今まで色んな女相手に何回も聞いてっから、信用出来ねぇ」



「失礼だなぁ。俺は女の子はみんな好きだけど、颯夏はまた別だよ」



琉依は真面目な顔をして「だから、颯夏が虎牙を好きって言うまでは、手は引かないよ」と言った。

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