第51話

何とも言えない空気が流れる私達の間を割るみたいに、高めの声がして虎牙君の胴回りに女子が絡みつく。



「虎牙ぁー、探したよぉー、今日こそは遊んでもらうからねぇー」



見覚えがある。虎牙君の膝に乗っていた女子だ。



チラっとこちらを見て、鼻でフッと笑う。



「ねぇ、虎牙ぁー。こんな子より、私の相手してよぉー」



「離れろ。触んな」



眉間に皺が寄る虎牙君は、明らかに苛立っているのが分かる。



虎牙君と繋がった手に力が入る。



「こんな子より、私の方が可愛いし、虎牙を満足させてあげられ……」



「離れろって言ったの、聞こえなかったか? 何回も言わせんな、しつけぇ」



「だって、虎牙っ……」



「だってもクソもねぇよ。俺は今後、コイツ以外を抱く気はねぇ」



巻き付く女子の手を振り払い、虎牙君は女子を見る事すらなく私の手を引いて歩き出す。



「何でっ、そんな女っ……」



「お前、俺が気づいてねぇと思ってんなら、大きな間違いだかんな。もしコイツに今までみたいなしょーもねぇ事しやがったら、女だからって容赦しねぇぞ」



それだけ言って、虎牙君が手を引っ張る。



「虎牙、君っ、あの……いいの?」



「あ? 逆にいいのか? 俺が他の女のとこ行っても」



意地悪な聞き方をされ、私は下を向いて首を横に振る。



反応がないから、恐る恐る虎牙君の様子を見る。



「あー、クソ……何だそれ……んな可愛い顔して見上げんなっ……。さっさと帰んぞ」



手をしっかり握って、二人で帰り道を足早に歩く。



歩いている間も、心臓は激しく暴れ回っていて。



早く彼に触れたいと、触れて欲しいと手に汗が滲む。



家に近づくにつれ、体の温度が上昇しつつあるのがハッキリと分かる。



エレベーターに乗り、扉がしまると同時に、私に暗い大きな影が覆い被さる。



「んっ、ンっ、ぅんンっ……はっ、んっ……」



「はっ、んっ、はぁ……クソっ、全然っ、我慢っ、きかねぇ……」



壁に追いやられ、激しくキスが繰り返され、息も絶え絶え、背伸びをして虎牙君の首にしがみつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る