第43話

口ごもって首を振る私の耳に口づけながら、獣織君は甘く囁く。



「ほら、ちゃんと聞いてやっから、言えって……」



それだけの事なのに、少しでも彼の特別でいれているのだろうかと、少し期待してしまうチョロい自分が情けなく感じる。



「教室……で、一緒だった、女の、人は……」



「教室? 誰の事だ? んー………………」



そんなに考えないと出て来ないとか、どうなっているんだろう。



「あぁ、アレか。お前、まさかあんなん気にしてたのかよ……。アレはあの女が勝手に乗って来ただけで、あの後すぐ退かしたっつーの。つか、何? お前、妬いてんの?」



改めて口に出されると、顔に熱が集まって、羞恥で苦しくて、獣織君の肩口を何度も叩いて暴れる。



「だから、暴れんなっつの。落ちんだろーが」



叩く私の手を掴んで、引き寄せられて、鼻と鼻が触れる。



「お前、こんな可愛かったか? 俺の事大好きだって、体全部で言ってんの、気づいてっか?」



「っ……」



顔から火が出る勢いの私に、獣織君は楽しそうに、だけど何処か嬉しそうに、片方の口角を上げて笑う。



「言ってみ? 俺を好きだって……」



「ゃだっ、い、言わなぃっ……」



余裕な獣織君に悔しさが出て、私は首を何度も横に振って拒む。



「ったく、たまに強情になるよな、お前。まぁ、それも嫌いじゃねぇよ。可愛くてたまんねぇわ……」



「やっ、んンっ……ゃ、ぅんっ……」



甘い言葉が次々に飛び出して、私はもうどうしていいか分からず、頭がパニックだ。



獣織君の舌が口内を優しく激しく愛撫するから、体の熱さが違う熱さへと変化して、抵抗していたのに、自然と獣織君にしがみつく。



「颯夏、好きだ」



唐突で、呆気に取られて目を開く私に、獣織君が続ける。



「そんな意外そうな顔すんな。言っとくが、俺はちゃんと態度に出してたぞ?」



確かに、だいぶ発言が甘かったり、前みたいに怖さはなくなってきていたし、体を重ねた後も何だかんだ気遣われたりもしていたけど。



好きだなんて、初めて聞く。



獣織君が、私を、好き。



改めて頭の中で反芻していると、たまらなくなって獣織君の肩に顔を埋める。



「で? 聞くまでもないけど、お前は? お前だけ言わないってのは、なぁ?」



絶対楽しんでいる。



「獣織君……意地悪だっ……」



「イジメたくなるくらい、可愛いお前が悪い」



そんな事言われても困る。



意識してしまったら、ただ流されていくだけだ。



「言えよ……聞きてぇ……お前のこの小さくて可愛い口から」



可愛いばかりを言われ続けるのも、さすだにもう限界で。



「す、好きっ……獣織君が、好き、ですっ……」



「ふっ……知ってる」



柔らかくて、嬉しそうな、愛おしいみたいな笑顔を浮かべて囁かないで。



もっと貴方を好きになってしまう。



溺れてしまうから。

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