第39話

一緒にいると安心する。



安心かは分からない。怖い人というのは、いまだに多少は残っていて、それでも傍にいるのは、いたいと思うのは、多少なりとも好意があるのだと思う。



触りたくなる、触れられると気持ちよくて、ふわふわする。



これも多分、好意からだ。



ヤキモチ、か。



獣織君は女の子に声をかけられるものの、あまり興味を示さないから、ヤキモチを妬こうにも妬けない。



何より、私に嫉妬なんて感情があるのかすら疑問だ。



「何の話ー?」



「る、琉依君……」



「あ、熊白じゃん。次は颯夏に手ぇ出す気? やめてよね、颯夏はあんたと違って純粋なんだから」



「うわぁー……最低だー」



琉依君は本当に凄い。



あっという間に輪に溶け込んでしまう。



「みんな協力してー、颯夏が俺を好きになるように後押ししてー」



冗談めかして話す琉依君が、机に頬杖をついてこちらを見てニコリと笑う。



「でも俺、割と本気で口説きにかかってるんだけどなぁ」



髪を撫でる指が、頬を流れて親指が唇を撫でる。



「あ、そうそう、今日はねデートのお誘いに来たんだよ」



笑顔で言って、琉依君は私の手を取って立ち上がらせる。



「えっ、い、今からっ!? じゅ、授業っ……」



「大丈夫大丈夫ー、レッツゴーっ!」



何も大丈夫じゃないけど、引っ張られながら廊下を進むと、私の耳に聞き覚えのある声がする。



「何してんだ、やめろ」



「えぇー、だってぇー、最近全然会ってくんないじゃぁーん。あこ寂しぃー」



獣織君の声と、甘えたような声が聞こえる。



廊下側の席に座る獣織君の膝に、跨るみたいに座って首に腕を回して纏まりつく女子。



そういえば、獣織君には体だけの女子が何人もいた事を思い出した。



実際そういう場面を見たわけでも、遭遇したわけでもないから、聞いた話でしかなかったけど、やっぱりそうだったのか。



確かに、女は“ただの穴”だと言っていたし、別に珍しい光景ではないのかもしれない。



でも、何だか、見ていて気持ちのいいものではなくて。



「おっと……あーっと……こりゃマズい……」



琉依君に手を引かれて廊下を歩く私と、女子を膝に乗せて座る獣織君の目が合った。



少し驚いたみたいな顔をした獣織君から、目を逸らした。



「颯夏?」



「行こ、琉依君。邪魔したら、悪いから」



彼女どころか、彼の恋愛対象にすらなれない私に、女性関係をとやかく言う権利はないし、そんな立場でもない。



「おいっ……」



獣織君の声が聞こえたけど、聞こえないフリをする。



琉依君と繋いだ手を引っ張って、足早に廊下を進む。



「逃げるんなら、こうした方が早いよ」



「きゃぁっ!」



突然体が浮いて、琉依君に抱っこされた。

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