第三章

第16話

話し声がする。



でも、目が開かない。



「お前が放置して行くから、颯夏が床で倒れてたんだぞ。だから保護したんだろ。俺じゃなかったら、今頃大変な事になってたかもしれないんだからな。颯夏で遊ぶのもいいけど、もっとちゃんと考えてやれよ」



琉依君の声が、少し怒っているみたいに聞こえる。



「あんま酷く扱うなら、颯夏は俺が貰うから。あ? 写真? お前、まさか……はぁー……だから昨日あんなに泣いて……いや、別に。は? 颯夏は今寝てるけど……あ、おいっ!」



電話でもしているのだろうか。



何とかゆっくり目が開き始めた。



「あ、起きた? おはよ。痛いとこない? いやぁ、あんまり颯夏が可愛いもんだから、ちょーっと興奮がレベル超えちゃって、優しくしてあげれなくて、激しくし過ぎちゃった、ごめんね」



琉依君は眉を八の字に下げて、困ったみたいに笑う。



「許してくれる?」



座った私を下から覗き込むみたいにされ、頷くと笑顔になって触れるだけのキスをされる。



「シャワーする? 体、洗ったげよっか?」



「い、いいい、いらないですっ! じ、自分で、出来ますかっ……」



私が言い終わる前に、寝室の扉が開かれた。



現れた人を見て、私は心臓が止まるかと思った。



息が、出来ない。



この人の無言が、一番怖い。



ゆっくり私の所へ歩いてくる。そして、ベッドの横でしゃがんで自らの顔を私の顔に近づけた。



「優しく抱いてもらえて、満足か?」



「ぁ……っ……」



声が、出ない。



何か言わなきゃいけないのに。怖くて、話せない。



「何か言えよ、淫乱クソビッチちゃんよ」



「虎牙やめろ、怖がらせても意味ないだろ」



「関係ねぇお前は、黙ってろ」



カタカタと体が震えて、止まらない。



「約束を忘れるくらい、琉依とのセックスはよかったか? あ?」



「虎牙……やめろ……」



「俺の条件を飲んだのはコイツ自身だ」



「お前が脅したんだろ」



「あの程度の脅し、頭使えば何とでもなるだろうが。それをしねぇで、目の前の楽な方を選んだのはコイツだろ」



彼の言う言葉は間違っていない。



私は、自分から選択肢を消したようなものだ。



ベッド横のミニテーブルに、私の制服が綺麗に畳まれていて、それを掴んで投げられる。



「さっさと着ろ。お話しねぇとなぁ、今後について」



「虎牙っ!」



「琉依君っ! い、いい、から……」



喘ぎ声以外で、久しぶりにこんなに大きな声を出した気がする。



「ごめん、なさい。っ……優しくしてくれて、ありがとう……」



自分で獣織君の誘いに乗ったのなら、自分で責任を取らなきゃ。



関係ない人を、巻き込んじゃいけない。



「さっさとしろ」



急いで服を着る私を、琉依君が抱きしめる。



「苦しくなったり辛くなったら、お願いだから……一人で泣かないで……いつでもおいで。待ってるから」



琉依君は、最後に額にキスをして「ごめんね」と言った。

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