第31話 時代劇の江戸城はだいたい姫路城だというミステリィのトリックのような話

 どこかで、時代劇に登場する江戸城は、実は姫路城であるという話を聞いたことがある。


 お城の内部などの場面は撮影用のセットだが、遠くから城全体が映る場面は姫路城を使っているらしい。本当かどうかは知らないが、聞いたときは感心した。考えてみれば江戸城は現代には存在しない、ならばどうやって広大な城の映像を撮るのかといえば、現代に残っているお城を使えば良いのである。しかも、姫路城は江戸城と造りが似ているそうだから、下手にCGや模型を使うより雰囲気が出るのだろう。


 私は、過去に姫路城を見たことがある。旅行中に姫路駅で電車の乗り継ぎに失敗したので、待ち時間に駅を出て姫路城を遠くから眺めてみたのだ。世界遺産に登録されたというだけあって立派な城だった。なにより、城を囲む堀や城壁が見事で圧倒される感じである。城の入口から天守閣までは相当な距離があるようで、広さというかスケールがよくわかった。


 これならば撮影する角度などを工夫すれば雰囲気ばっちりの映像が作れるのだろう。ちなみに、城が好きな人ならば、だいたいどこから撮ったかすぐにわかるらしい。だが、私は全く気が付かなかった。映像の中の姫路城を、江戸城だと思って見ていたのである。



 冒頭に話は戻るが、時代劇の中の江戸城は実は姫路城という話を知ったとき、ミステリィのトリックみたいだなと思った。

 ミステリィのトリックには色々なバリエーションがあるが、場所や建物を誤認させるというものがある。事件現場を目撃者に勘違いさせてアリバイを作ったり、捜査を撹乱させたりするものだ。他にも、Aさんだと思っていた人物が実はBだったというものもある。

 今回の江戸城のケースは、誰かをだまそうとしているわけではないと思うが、視聴者は姫路城を江戸城だと思って見ているというのがなかなか面白いと感じるのだ。気が付かないだけで、こういうものは他にも存在するのかもしれない。



 ところで、もう一つ似たような話を経験したことがある。


 仕事で、関西の地方都市へと出張したときのことだ。目的地までは電車で移動していたのだが、乗り換えのために途中で降りることになった。田舎の街にある駅なので、降りる人はあまりいない。駅自体もそれほど大きくはなかった。

 ところが、私が降りたのとは反対側のホームでは人が大勢いたのである。


 こちらと比べて不自然なくらい人がいるので、もしかすると事故が起こったのかと思った。だが、それにしては静かで騒ぎになっているような感じはない。人々の様子を見たところ、団体旅行の客というわけでもなさそうだった。不思議に思いながらもホームを歩いていくと、何やらプラカードを持った人が立っている。それを見て納得することができた。

 映画の撮影だったのである。田舎の駅で大勢の人が静かにたたずんでいたのは、こんな理由があったのだ。



 その後、知人にこの出来事を話してみた。すると、知人は撮影していた映画のことを知っていたのである。話を聞いてみると、東京の郊外が舞台の映画ということがわかった。だが、私が撮影を目撃したのは関西の地方都市である。


 首をかしげる私に、知人は得意げに説明してくれた。映画の舞台は東京の郊外ではあるが、郊外といってもそこは東京である。駅で撮影しようとしても、人が多すぎて無理なのだそうだ。だから、人の少ない地方の田舎の駅にエキストラを集めて、それらしくみせたらしい。知人によると、カメラアングルなどを工夫して撮影してはいるが、鉄道に詳しい人ならばホームや電車のちょっとした特徴から、撮影地が東京でないことに気づくだろう、ということであった。



 知人の話を聞いた私は、素直に感心した。そして、江戸城の話なども含めて何かミステリィのトリックに応用できないかと考えたのである。だが、いいアイデアは思いつかなかった。何かを、別の物や場所に勘違いさせたとして、それにどういう意味をもたせるのかが難しい。


 結局、ミステリィのトリックに使うのは無理そうではあったが、なかなかに面白い体験であった。

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