第46話 読んだら精神に異常をきたすという本があるそうなので、わくわくして読んでみた話

 ネタっぽいタイトルをつけてしまったが、これは夢野久作氏が著した「ドグラ・マグラ」という本を読んだ話である。

 誰が言い出したのかわからないのだが、この「ドグラ・マグラ」は読むと精神に異常をきたす、とされているらしい。こんなことを言われると遠慮しておこうかな、と考える人もいるかもしれないが、私は喜んで読もうとするタイプである。


 ちなみに、この「ドグラ・マグラ」は日本三大奇書とか日本三大探偵小説と呼ばれている本の中に含まれている。他の二冊は、小栗虫太郎氏の「黒死館殺人事件」と中井英夫氏の「虚無への供物」である。誰がこの三冊を選んだのは知らないのだが、ミステリィとかオカルトが好きな私としては非常に興味がそそられるのだ。


 こんなわけでいつか読もうと思っていたのだが、なかなか機会がやってこなかった。有名な本なので、通販なり手に入れる方法はいくらでもある。だが、自宅には読まないまま積まれた本がたくさんあり、どうも気が乗らなかった。学生時代は買った本はすぐに読んでしまっていたのだが、社会人になるとお金はあっても読む時間が無くなってしまうのである。

 そんなわけで、心の隅では意識していたものの読むのは先延ばしになっていたのだった。


 ある日、隣町に出かけた際に図書館に寄ってみたのである。そこで何となく小説の棚を眺めていると「ドグラ・マグラ」が目に入った。この本はいくつかの出版社から出ているようなのだが、図書館にあったのは古いものである。手にとって表紙を見てみたのだが、タイトルがすごかった。なんと「ドグラ・マグラ:幻魔怪奇探偵小説」である。

 幻魔ってどういうことだよ、思わず心の中で突っ込んでしまった。探偵小説と幻魔なんて言葉が、どう結びつくのか謎である。これは読まねばならない、そう思ったのであった。


 とはいえ、隣町の図書館で借りると、返却期限までに読み切れるか不安である。思い切って買ってしまおうか、とネットで調べていると意外なことに気づいた。なんと、青空文庫で読めるのである。青空文庫は、著作権の切れた本などを電子化して読めるようにしてくれているという、大変ありがたいサイトである。たまに利用していたのだが「ドグラ・マグラ」が読めることに気づいていなかった。この小説は1935年に発表されたもので、実はかなり昔のものなのである。

 読むと精神に異常をきたす、と言われている本が手軽に読めるというのは、なんだか複雑な気がする。とはいえ、読めるようにしてくれた人々に感謝しつつ読んでみることにした。



 ネタバレにならないように、軽く「ドグラ・マグラ」のあらすじを紹介しておくと、この話は、主人公の「わたし」が見知らぬ部屋で目覚めるところから始まる。主人公には記憶がなく、自分がどうしてここに居るのかもわからない。やがて、ある博士と面会して自分がどうしてここにいるのか話を聞くことになるのだが……。と、言った内容である。



 ミステリィにおいて、ネタバレは小説の楽しさを大きく損なう行為であって、人によっては許されざる大罪だと感じるかもしれない。ただ、この「ドグラ・マグラ」については、ネタバレが意味がないような気がする。三大探偵小説の一つにあげられてはいるが、この小説は犯人やトリックがどうかという話ではないと思う。さらに、冒頭からラストまでを含むあらすじを読んでも、内容がよく分からないのではないだろうか。

 もちろん、これは私の感想であって、誤読しているとか理解が浅いだけという可能性は大いにある。だが、私はこの小説は、しっかりと文字を目で追って、自分の頭の中でイメージなりストーリーを展開させてこそ、面白さが味わえるものだと思う。


 この「ドグラ・マグラ」では、ストーリーの本筋に関係あるのかよく分からないパートがあったり、これって何の話だっけ? と思うような場面が登場する。しかしながら、どの場面も綿密というかねっとりと描写されており、読んでいくうちに奇妙なリアリティというか存在感を覚えるのだ。「心理遺伝」という、いかにも怪しげな言葉が登場するが、これもストーリーを読み込んでいくうちに説得力を感じる、いや感じさせられるようになる、と言えば良いのだろうか。



 私が感じた「ドグラ・マグラ」は以下のようなものだ。

 記憶喪失の主人公が見知らぬ部屋で目覚めるという、サスペンス風の冒頭から、ストーリーは想像もできない方向に展開する。それに戸惑い、幻惑されながら怪しげな世界に漂うことになる。一体この話はどこにたどり着くのか、と読み進めていくと、終盤になるとストーリーは急加速し、世界が崩壊するような感覚を味わった。

 そしてラストを読むと、思わず冒頭部分を開いて読んでいた。何かがわかったようで、結局何もわかっていないような奇妙な読後感である。

 もう一度、最初から読み直せば、新たなストーリーが見えてくる、あるいは全く違ったストーリーだと思うかもしれない、という予感があった。だが、まだ再読はしていない。



 自分が感じたことを正直に書いてみたが、伝わったかどうかはわからない。「ドグラ・マグラ」を読んだ人からは、そんな話じゃないよ、と突っ込まれそうな気もする。あくまで私の感想であって、こういう風に感じる人もいるのだな、と思っていただければありがたい。



 読めば精神に異常をきたすという「ドグラ・マグラ」であったが、幸いにも私は大丈夫だったようだ(内容を理解できてないないからかもしれない)。誰にでも気軽に勧められる小説ではないと思うのだが、読んだときの奇妙な感覚はまさしく奇書といったところである。青空文庫で公開されていることもあって、読もうと思えば手軽にアクセスできるので、興味のある方は試してみたら良いのではないかと思う。


 さて、ここまで「ドグラ・マグラ」について書いてきたつもりだが、実は私は精神に異常をきたしていて、デタラメや支離滅裂なことを書いているかもしれない。

 本当のことを書いているかどうかは、是非ともご自身で読んで確かめていただくことをお勧めします。

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