第10話 罠にかかった珍しい生き物たち

 前回、ネズミ対策の粘着シートが登場したが、これを書いているうちに別の話を思い出した。それは、罠に引っ掛かった珍しい生き物のことである。

 昔に読んだホラー小説に、ネズミ捕りの罠に奇妙なモノがかかる、というストーリーがあった。現実では、そんなことは起こらないものだが、どうしてこんなものが? という事態はたまに発生するのである。


 まずは、私の体験からである。

 家のそばにある作業小屋にはネズミ用の粘着シートを設置しているのだが、ネズミ以外のものが結構かかるのだ。数が多いのは虫で、ゴキブリや小さな羽虫などがいつの間にか引っ付いている。これらはありふれた虫なのだが、ときおりナナフシやマイマイカブリというようなレアな虫が何故か張り付いているのだ。

 マイマイカブリはカタツムリを捕食する肉食昆虫なのだが、それがどうして作業小屋に入ってくるのかよくわからない。ナナフシについては草食なので、なおさら意味がわからないのである。

 念のために書いておくと、小屋はそれなりにきれいにしているので、昆虫が住処にしようとするような場所ではないはずなのだが。


 昆虫以外で珍しいものだと、何故かサワガニが引っ掛かっていたことがある。少し離れたところに小さな水路はあるが、わざわざ小屋の中に移動してきて罠にかかったのだろうか、これもよくわからない。

 もう1つは、モグラである。過去に、変なネズミがかかったと思って、よく見てみるとモグラだったということがあった。作業小屋の床はコンクリートなので、わざわざ外から侵入してきたことになるが、なぜこんな行動をとったのかよくわからない。モグラというと、ほとんどは土の中で暮らす生き物ではなかったのだろうか。


 どうやら、人間が知らないところで野生動物や虫たちは活発に行動しているようである。



 次は、知り合いのDさんの話である。

 Dさんは、山の多い田舎に住んでいる。ある日、飼い犬が山の方へしきりに吠えていた。Dさんは家の周囲を確認したが、特に異常はない。犬が吠えている山の方も、ちょっとした畑や田があるだけで何もないはずである。 

 不思議に思ったDさんは、ふと山の中にイノシシ用の罠がしかけてあることを思い出した。何かが、かかったのかもしれない。Dさんは様子を見に行くことにした。


 山にしかけてある罠は、イノシシの食害に困った地元の人が許可をとって仕掛けた、きちんとしたものである。箱罠と呼ばれるタイプのもので、大きな檻にエサを置き、入ってきた動物がワイヤーに触れると檻の扉が下りて捕らえるという仕組みになっている。


 Dさんが遠くから罠を眺めると、檻の扉が下りていた。箱罠が作動していたようである。慎重に近づいていくと、檻の中には何やら大型の動物がうずくまっている。だが、それはどう見てもイノシシや鹿ではない。このあたりの山に熊はいないから、イノシシや鹿以外の大型の動物はいないはずである。

 おそるおそる確認してみると、檻の中では大型のジャーマンシェパードらしき犬が、途方にくれた様子で座っていたのだった。


 困惑したDさんが近所の人に知らせると、それは捜索願がでていた犬であることがわかった。隣町の住人に飼われていたのだが、逃げ出して行方がわからなくなっていたとのことである。檻の中に入っていた犬は怪我もなく、知らせを受けた飼い主に無事に引き取られていったそうだ。


 しかし、なぜジャーマンシェパードがイノシシ用の罠に入ったのかは謎である。エサとして置いてあったのは米ぬかで、犬が好むとは思えない。しかも、隣町から罠の場所までは山しかなく、犬の気を引くようなものはないはずである。

 Dさんの近所に住むおばさんは、「脱走した犬は、山に入って迷子になったのよ。それで疲れてたところに、小屋みたいなものがあったから、一休みしようとして箱罠に入ったに違いないわ」と推理したが、真相は謎である。


 ちなみに、逃げだしたジャーマンシェパードは大事にされており、脱走することはなくなったそうだ。案外、好奇心から外に出てみたものの、何もない田舎の山にこりたのかもしれない。

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