第43話 事故物件って本当に「何か」が起こるの?

 前回に続いて事故物件に関する話なのだが、フィクションではなくて現実では「何か」が起こるのだろうか? という話である。何かって何? というツッコミが聞こえてきそうだが、心霊的とか怪異的なものだと思っていただきたい。

 私としては、はっきり言って否定的である。フィクションの世界では面白いと思うが、それと現実とは別だと考えているのだ。

これから理由を説明していこうと思う。


 まず、私が結構な年齢であり、田舎で育ったことが関係していると思う。若い人には、なかなか想像できないことかもしれないが、昔の田舎の家では、お年寄りを家で看取るということが普通にあったのである。さすがに、現在は施設や病院で亡くなる方が多くなったのだが、昭和の時代だと珍しい話ではなかったように思う。

 実際に私が若かった頃は、そういったケースを何度も見聞きしたことがあった。友達の家に遊びに行っていたら、具合が悪くて奥座敷でふせっていた高齢者の方が……ということすらあったのである。


 ゆえに、ある程度古い家では過去に人が死んでいるなんてことは、当たり前だったのである。だから、過去に人が亡くなったから「何か」が起こるなどと言われてもピンとこないのだ。それを気になどしていたら、住む家が無くなってしまうともいえる。

 

 他に、田舎の家の事情として、天井から何かの音がするとか、夜に何かの気配がするというは珍しくないというのもあるだろうか。ネズミが屋根に侵入して巣を作ろうとするとか、それを狙ってイタチが大暴れするということもあった。最近は都会でも、ハクビシンなどが住み着くことがあるそうだが、野生動物は厄介なものなのである。夜中に物音がするぐらいで済めば良いが、糞尿によって天井が抜けたりしたらと考えるだけで恐ろしい。

 さらに床下の通気口に、怪しげな白い影……ではなく、白いアリがうろうろしていたら大変である。シロアリの防除で検索していただければ、家に対するダメージや金銭的な恐ろしさを理解していただけるのではないだろうか。


 このように別のリアルな恐怖が存在しているので、霊的な何かなど気にならないというか、気にしている場合ではないというところなのである。

 しかしながら、じゃあ事故物件であっても平気で住むことができるか? と問われると困ってしまうというのも事実であったりするのだ。次は、その話である。



 昔、転勤に伴ってアパートを探しに不動産屋へ行ったときの話である。

 急な転勤であったため、時期は3月末になっていた。なので、条件の良い物件はうまってしまっていて、残っているのはわずかだったように思う。

 その中に、まあまあ条件の良い物件があった。家賃はそれなりだが、駅からも近いし建物もきれいで悪くないように見える。私が興味を示すと、不動産屋は少しためらってから口を開いた。


「うーん、その物件なんですが……実は半年程前に空き巣が入ったんですよ。部屋自体は良いのですけどねえ」

「ああ、そういうことですか。うーん」


 不動産屋の話に、私は少し考えた。空き巣というのは、とにかく侵入しやすい建物を狙うと聞いたことがある。防犯対策が緩いとか、周囲から目につきにくい場所などだっただろうか。

 一度空き巣が入ったことで、何らかの対策がされていれば良いが、そうでなければ二度目があるかもしれない。また、人通りが少なくて空き巣に入りやすいということなら、アパート側の対策ではどうにもならないのである。警察などが見回りを強化してくれるなどということもあるかもしれないが、効果のほどはよくわからない。


「ええと、その物件は遠慮しておきます」

「まあ、あまり大きな声では言えませんが、その方が良いと思います」


 意外なことに、不動産屋もやめておいた方がいいと言いたげな態度であった。こうなると、私もこの物件にこだわる気はない。残った物件から、比較的条件が良さそうなところを選ぶことにしたのであった。

 そうして決まったのだが、前回の話に登場したアパートである。もしかしたら、ここも何かあったのかもしれないが、私も不動産屋も気づくことができるはずもなかったのだ。



 いろいろと書いてしまったが、要は事故物件だからと言って過剰に怖がる必要はない。ただし、その事故物件となった条件、あるいは要因が残っている場合は気をつけなくてはならないということである。

 具体的な例だと、過去に高齢の方が持病で亡くなったことがある物件を想像していただきたい。この場合は、気分的には良くないかもしれないが、新しく住む人に実害はないだろう。

 一方で、殺人事件があった物件はどうだろう。殺人事件と言っても色々なケースがあるので、必ずしも恐れることはないとは思う。ただ、事件の原因が、物件のある地域の治安が悪くて……ということになると話は変わってくるだろう。治安が悪くて事件が起こったのに、それが解消されていないと、新しく入居した人もトラブルに巻き込まれるかもしれない、と言えばわかりやすいだろうか。



 結局のところ、死者より生きている人間の方が怖い、という平凡な結論になってしまった。だが、現実世界で生活する私たちにとっては、死んでしまった人間より、生きていて何かをするかもしれない人間の方が恐ろしいというのは、紛れもない事実なのである。




 最後に、事故物件にまつわる怖い話を一つ。


 ホラー小説の世界などでは、お金に困った学生が安い家賃につられて事故物件に入居するというシチュエーションが登場することがある。だが、現実ではそんなことはほとんど起きないらしい。

 なぜかと言うと、事故物件ということで家賃を安くしている物件は、すぐに入居者が決まってしまうので、普通に家を探している人にはチャンスがまわってこないのだそうだ。世の中には、経済的な理由で安ければ事故物件であることなど気にしない、あるいはそんなことを気にしていられない、という人が大勢いるらしい。


 この話が本当かどうかはわからないが、嫌なリアリティのある話だと思う。

 ある意味、現実の世界が一番恐ろしいということなのだろうか。

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