第17話 山で穴を掘りながら考えたこと
知人の手伝いで山に穴を掘りに行って、無事に目的の土管を掘り出すことができた。
あてもなく土を掘り返す作業は苦痛であったが、ゴールが見えてくると気分が楽になる。これでなんとか水路を修復できそうだ。しばらくは埋まった土管を掘り出すことに集中していたが、単純作業になると頭がどうでもいいことを考えだしてしまう。
さきほどは、山に死体を埋めるのは難しいという話になった。
しかし、現実にあった事件で、重機を使って深く埋めたというものを思い出したのである。木々の生い茂った山で、人力で人間を埋められるほどの穴を掘るのは困難だが、機械を使うのなら話は変わってくると思う。多少の石や根など問題にならないだろうし、迅速かつ深く掘ることができるだろう。
だが、死体を運搬するのだって大変だが、重機はそれ以上である。目立つだろうし、作業をすると大きな音が出てしまうだろう。工事を装うにしても、関係者に知られてしまったら一発でアウトである。見知らぬ人間がウロウロしているのは見逃せても、勝手に重機を持ち込んでいるとなれば放置できないだろう。普通ならば、重機を使うのには大きなハードルがあるのである。なら、現実にあった事件ではどうやって犯行に及んだのだろうか。
実は、この事件で犯人が死体を埋めていたのは、自分の所有する土地だったのである。そう、他人の山にこっそりと死体を埋めるのは難しい。だが、自分の所有する場所なら多くの問題をクリアできるのである。自分の土地なら、他人はそうそう立ち入ってこないだろうし、好きなペースで作業をすることが可能だろう。作業については森の手入れだとか、それこそ埋まった水路を掘り出すとでも言えば良いのである。
では、自分の土地を持っている人はそこに死体を埋めればいいのか、というとそうでもない。この場合は疑いがかかったら、すぐに調べられてしまうだろう。誰かが行方不明になって、容疑者が山林を持っている、となったら警察が目をつけないはずがない。警察の組織力を持ってすれば、すぐに証拠を見つけ出すことができるだろう。
結局のところ、山に死体を埋めるというは、うまいやり方ではない気がする。よほど、偶然や好条件に恵まれていれば別かもしれないが、一番はさっさと自首することだろう。
あれこれ考えているうちに、作業は終わった。
道具を軽トラックに積んで、細い道を下っていく。ガタガタと揺れる車につかまっていると、再びあれこれと考えが浮かんでくる。
これがミステリー小説ならどうだろう。掘り出した土管は本当に水路だったのだろうか。本当は水路としては使われていない場所で、何か別の目的で掘り出したとか。あるいは、別の場所に既に穴が掘ってあって、今日の作業はカモフラージュというのはどうだろう。色々と考えてみたが、ミステリーのトリックとしては今ひとつのものしか浮かばなかった。
山の斜面を下り、森林を管理するために作られた私道に出た。この道路もなかなか傷んできているな、と思っていると正面に軽トラックが停まっている。疑問に思っていると、運転していた知人が口を開いた。
「あれは、このあたりで一番土地を持ってる人。俺と違って、まめに手入れに来てるんだよな。道路も補修してくれてるみたいだし」
「ふうん、人なんか滅多に来ないような場所だと思ったけど意外だね」
「そりゃあ、自分の土地で金になるかもしれないってなったら、気合も入るだろうさ。ああ、俺だってもっと広くて良いところに山があったら、がんばるのになあ」
あらためて見ても山しかない場所だ。それでも、私たちのようにやってくる人間は居るのである。
山に死体を埋めるのは難しい、あらためて思ったのだった。
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