第18話 9月の暑い夜に起こった恐ろしい話
私は怪談が好きだが、読んでいて怖いと感じたことはあまりない。これは勇気があるとか度胸があるわけではなく、感性が鈍いだけなのである。だが、そんな私でも恐ろしいと感じる事件が実際に起ったことがあった。今回はその話である。
あれは、9月下旬のまだ暑い夜のことだったと思う。
当時、私は家で一人で居て、パソコンで作業をしていた。時刻は午後9時43分ぐらいだっただろうか、直前にパソコンの時計を見た覚えがある。
何の前触れもなく、部屋の照明が消えた。
照明だけではない。パソコンも繋いでいたモニターも、中途半端な電子音を出して電源が落ちた。真っ暗な部屋の中で、私はためいきをついた。どうやら、停電のようである。
私の住んでいる田舎では、このようにたびたび停電が起こるのである。風の強い日や、大雨の日、そして今日のような普通の日であっても、急に電気が消えることがあるのだ。大抵はすぐに電力が復旧するので問題はない。電力会社から特に連絡などもないが、住民は慣れているのである。
このときも、私はいつもの停電だと思った。パソコンの電源が落ちたのは困るが少し前にデータを保存していたので、本体に影響がなければ問題ないだろう。暗い部屋の中、どうしたものかと考えていると、窓の外がうっすらと明るいことに気づいた。
カーテンから外をのぞいてみると、隣の家の照明がついている。それどころか、道路脇に設置された外灯もきちんと道を照らしていた。どうやら、電気が消えたのは私の家だけのようだ。
私はスマホのライトを点灯させると、配電盤を確認するために立ち上がった。電気を使いすぎたわけではないと思うのだが、ブレーカーが落ちたのかもしれない。
ちなみに、個人家に設置してあるようなものは分電盤と呼ぶらしいが、今回は配電盤と表記しています。
配電盤を照らしてみると、やはりブレーカーが落ちていた。しかし、この家でブレーカーが落ちたのは、過去に親戚が集まった際に、エアコンやらドライヤーなどの電力を使う機器を同時に使用したときだけである。今は、私が1人だけでパソコンと扇風機を使っていたぐらいだ。
不審に思いながら、ブレーカーのスイッチを1つずつ戻していく。蒸し暑い暗闇の中で慎重に作業をしていると、なんだか映画の一場面みたいだなと思った。スプラッター映画なら、家に侵入した殺人鬼がブレーカーを落として住人を混乱と恐怖に陥れるのである。怪奇現象が起こるようなホラーなら、明かりが点いた瞬間に何かが部屋に居るとか、家の中に異変が起こっているのだろうか。
怪奇現象は起こらなかったが、あるスイッチを戻すとブレーカーが落ちることがわかった。ライトで照らしてみると「給湯器」と書かれたシールが貼られている。どうやら、給湯器に何かの不具合が生じたようだ。私は給湯器以外のスイッチを入にして、ひとまず処置を終えた。ひととおり試してみたが、給湯器以外の電気は問題がないようである。
部屋に戻って照明を点けたら、壁に「お前を視ている」と血文字で書かれているようなこともなかった。パソコンも無事に起動し、データも無事でほっとしたことを覚えている。
幸いにして、オカルト的な現象やホラーな展開ではなかったので、対処は明日にしようと寝たのだった。
だが、恐ろしい展開はこれからだったのである。
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