第21話 ツバメの巣落下事件 後編

 ツバメの巣落下事件から、数日が経ったある日のことである。


 私は買い物の帰りに、妙なものを見つけた。近所の家の軒下で、カラスがうろうろしているのである。奇妙なことにカラスは、地面からジャンプしてから羽ばたき、少し上昇してから着地するいう行動を繰り返していた。まるで垂直に上昇する練習をしているみたいである。



 ところで、皆さんは鳥がなぜ飛べるか説明できるだろうか。

 私は正確に理解しているか自信がないのだが、鳥は羽を羽ばたかせて前進することで、翼や身体に揚力を発生させて飛行しているらしい。なんだか羽で空気を下側に送って浮いているように見えるが、実際は後方へ風を送っているのだそうだ。要は、飛行機と同じ原理らしい。

 なので、鳥は空中で静止するホバリングのような動きをすることは難しいそうだ。身体が小さく軽い鳥なら可能らしいが、

カラスぐらいの重さになるとまず無理なのではないだろうか。ましてや、垂直に上昇し続けるなど不可能に思える。



 なのに、そのカラスは家の軒先で謎の行動を繰り返している。

 首をかしげながら見ていると、カラスがひときわ高くジャンプした。懸命に羽ばたいて、屋根ぐらいの高さまでなんとか到達する。すると、屋根のあたりから砂ぼこりのようなものが舞い上がった。砂や土らしきものが、パラパラと地面に落ちていく。


 しばらくして、私はその光景の意味に気がついた。カラスはツバメの巣を狙っているのだ。身体が重いカラスは、空中で羽ばたきながら巣をつつくことは難しいのだろう。また、ツバメの巣は屋根の下の狭い場所にあるから、大きなカラスでは着地できないようだ。だから、地面から飛び上がって巣を落とそうとしていたのだろう。

 このときは、近くを人が通りがかったのでカラスは慌てて逃げていった。だが、我が家のツバメの巣は落とされてしまったのだろう。


 ツバメの巣落下事件の犯人は、カラスだったわけである。

 私は驚いたが、同時に感心もした。ツバメがかわいそうな気もするが、野生動物はそれぞれ工夫をこらして生存戦略を練っているわけである。ツバメは外敵から身を守るために、人間が出入りする建物に巣を作るらしい。だが、我が家は人間の出入りが少なかったのか、あるいはカラスがうまく人間不在の隙をついたのかもしれない。

 巣を壊されたツバメはどこかへ行ってしまったが、謎が解けて少しスッキリしたのだった。



 ところで、私はツバメの巣落下事件の犯人をカラスだと断定したが、調べてみると他にも容疑者はいたようだ。

 私の家の周辺にはイタチが生息しているが、これもツバメの巣を狙うことがあるらしい。他にも、野良猫をを見かけたことがあるので、こちらも怪しい。

 巣を壊すことはないが、蛇だってツバメの巣を狙うことがある。また、同じ鳥であっても油断はできないようだ。なんと、スズメが巣を乗っ取りにくることもあるそうだ。そして、同じツバメであっても巣を乗っ取ろうとするものもいるらしい。争っている最中に、巣が落下するということもあったかもしれないのである。

 ピヨピヨと鳴くツバメのヒナは可愛いが、なかなか危険の多い生活を送っているようである。

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