第22話 もやしって成長したら何になるの?

 私は、昼食を中華料理店で食べていた。



 選んだメニューは麻婆茄子定食で、ピリッとした辛さの中に確かなうまみがある。適当に選んだのだが、当たりだったようだ。昼食には遅い時間帯だったので、店は空いている。だいたい食べ終えて、ぼんやりと店内を眺めていると、中年の女性店員が近寄ってきた。


「お客さん、もしよかったら緑豆湯はどう? おいしいよ」


 正確な発音は忘れたが、リュートウタンみたいな呼び方だったと思う。初めて聞く料理である。湯というからには、スープの一種みたいだが。

 私がきょとんとしていると、店員が説明してくれた。


「緑豆は、もやしに使う豆ね。それを使った、ぜんざいみたいなものだよ」

「ああ、そうなんですか。では、お願いします」


 今ひとつイメージがつかめなかったが、知らない料理を勧められたら、とりあえず食べてみようというのが私のスタンスである。注文すると、店員はにこにこしながら厨房へと戻っていった。



 しばらくして、私の目の前に緑豆湯が置かれた。

 緑色の液体の中に、焦げ目のついたお餅が浮いている。餅の周囲には赤いクコの実がちらしてあって、色合い的にきれいな感じだ。

 抹茶のような色のスープではあったが、口に運んでみると店員の言ったとおりぜんざいの味がした。ぜんざいを食べたのはずいぶん昔なので懐かしい感じである。記憶の中のぜんざいより、甘さは控えめでさっぱりしている感じだろうか。

 緑豆湯を食べた私は、満足して店を出たのだった。



 帰り道、私は上機嫌で歩いていたが、ふと疑問が頭に浮かんできた。店員は緑豆湯を説明するときに、緑豆はもやしに使う豆だと言っていた気がする。だが、緑豆ってどんな植物だっけ? そもそも、もやしって成長したらどうなるのだろうか。私は足を止め、首をかしげたのだった。



 もやしって成長すると何になるの? 小学生が言うなら微笑ましい光景だろう。

 だが、これを口にしたのが中年男性だと、いたたまれないというか、痛ましい感じである。人に質問しようものなら「今まで何を考えて生きてきたんですか?」とか「その年まで、ボーっと生きてきたんですね」などと言われかねない。

 なので、私はパソコンを起動し、こっそりと検索エンジンに答えを求めることにしたのだった。


 私が適当に調べたところ、もやしは成長すると材料として使った種の植物になるらしい。まあ、当たり前である。

 なので、緑豆を用いた緑豆もやしが成長すると、緑豆という豆になるというわけだ。緑豆、という豆になじみがないから疑問を感じてしまったが、大豆もやしが成長すると大豆になるのと同じである。ちなみに、緑豆は豆そのままで利用されることは少なく、もやしや春雨の材料にされることが多いそうだ。


 ところで、現在流通しているもやしは、緑豆もやし、大豆もやし、黒豆もやしの3つが主流らしい。黒豆もやしに使うのは、ブラックマッペと呼ばれるもので、小豆に近い品種とのことである。黒豆というと、お正月などに食べる煮豆を思い出すが、そちらに使われるものとは品種が違うらしい。

 

 これで、 もやしって成長すると何になるの? と質問されても安心である。いや、そんなことは普通の人は知ってるよ、という声がどこから聞こえてきそうではあるが。



余談だが、もやしは日本では平安時代から利用されてきた歴史のある食べ物らしい。昔は薬としての扱いだったそうで、本格的に食べだしたのが大正時代ぐらいなのだそうである。そして、第二次世界大戦後から栽培が盛んになって現在に至るらしい。

 今や、スーパーなどで大量に安く売られているもやしだが、これを知るとありがたく思えてきそうである。……それも知ってるよ、と言われそうだが。

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