ミステリィとオカルト好きの探索記録
第51話 ミステリィスポット探訪 江戸川乱歩の生まれた地 三重県名張市
所用で名古屋に行くことになったのだが、時間に余裕があったので寄り道することにした。近畿日本鉄道を利用し、途中で下車したのは三重県の名張市である。
三重県名張市が、どうミステリィと関わっているのかというと、実はとある大御所の生誕の地なのだ。
推理小説を読まない人でも知っているであろう、江戸川乱歩先生が生まれた街なのである。
名張駅の南口改札を抜けると、いきなり正面に江戸川乱歩の像が立っていた。ベレー帽をかぶり手には本を持った姿で、いかにも地元の名士といった様子の像である。地元の人は普通に待ち合わせ場所として使っているようで、高校生たちが近くに座っている。当たり前だが、何か事件が起こりそうな雰囲気はない。
まずは、江戸川乱歩が生まれた場所に立っているという生誕の碑を見に行くことにした。
名張市はのんびりとした感じの地方都市で、ところどころに残っている古い建物に歴史を感じる。遠くに目をやると四方が山に囲まれており、緑が美しい。
スマートフォンを見ながら川沿いの道を歩いていると、林の中に由緒正しそうな神社があって良い雰囲気である。道の両側には普通の住宅に混ざって、古い建物や店が残っており、どこか懐かしい感じだ。酒屋らしきお店の玄関には、大きな杉玉が飾られていた。
のんびりと名張の街を眺めながら歩いていたのだが、一向に目的地に到着する気配がない。スマートフォンで確認すると、どうやら曲がるべき場所を間違ったようである。家と家の間の狭い路地を抜けると、小さな公園のような広場があり「乱歩生誕地碑広場」の表示があった。
生誕碑自体はシンプルなものなのだが、この場所で江戸川乱歩が生まれ、後に数々の探偵小説が創作されたと思うと、なんだか有り難い気分になってくる。乱歩が生まれた家はもうないのだが、周囲には古い家が残っており雰囲気は良い。
ところで、わざわざ江戸川乱歩生誕の地にやってきたのだが、実のところ乱歩は名張の街にはほとんど住んでいないのである。彼は1894年に三重県名張町(当時)で生まれたのだが、1897年に父親の仕事の関係で名古屋に引っ越しているのだ。だから、生誕の地といっても作品などへの影響はあまり無いのかもしれない。それでも、推理小説好きとしては一度は見てみたかったのである。
江戸川乱歩は3歳の時に名張を離れたのだが、次に訪れたのは1951年の57歳の時とずいぶんと時間が経っている。この時は、乱歩がお世話になった政治家の応援演説のためだったのだが、地元の人から大いに歓迎されたようだ。それにしても、探偵小説の大御所による応援演説とは、どんなものだったのだろうか、気になるところである。
生誕碑ができたのは1955年のことで、乱歩自身も除幕式に参加している。盛大に行われたそうだが、名張市の人々は探偵小説について理解が深かったのだろうか。なお、碑はのちに災害などで移設されたらしい。私が見たのは移設後のものだろう。
生誕碑を眺めた後、次に向かったのは名張図書館である。こちらは、駅から歩いて5分ぐらいの高台にあるので、来た道を引き返すことになった。
江戸川乱歩関連の展示があるそうなので、館内をのぞいてみると「幻影城」と表示された小さな部屋が目にとまる。中には、乱歩の全集や古い雑誌、使っていた道具などがぎっしりと詰まっていた。
展示ケースの中には、文机と硯が置かれ傍らには小さな火鉢があった。乱歩はこれらを使って執筆していたのだろうか。いろいろと便利になった現代では不便そうに思えるが、かえって良い作品ができたのかもしれない。
壁には、江戸川乱歩が名張市を訪問したときの写真が飾られていた。生誕碑の除幕式関連のものが多かったのだが、中でも目を引いたのは、除幕式翌日に行われたという講演の写真である。学校の運動場らしき場所で、中学生たちが真剣な表情で話を聞いていた。写真の説明には探偵小説についての講演とあり、当時の中学生が羨ましくなった。乱歩がどんな内容を子どもたちに語ったのか、興味が尽きないところである。
部屋の中には、江戸川乱歩以外のミステリー作品も収められていた。乱歩の名前を冠した江戸川乱歩賞受賞作はもちろんとして、なかなかのラインナップである。
ガラスケースに原稿が展示されていたので見てみると、第28回江戸川乱歩賞受賞作である「焦茶色のパステル」のものだった。作者は岡嶋二人で、たしか二人一組で小説を書いているというミステリアスな人だったように記憶している。しかし、原稿がどういう経緯でこの名張図書館に展示されているのかは、わからなかった。こんなところもミステリーに感じたのだが、私が知らないだけで何か縁があったのかもしれない。
三重県名張市は、江戸川乱歩生誕の地ではあるものの、乱歩が住んでいた期間は短く、行ってみてもあまり見るものはないかと思っていたが、意外に楽しむことができた。特に図書館は、乱歩関連の書籍が充実しており、時間に余裕があればのんびりと読書を楽しみたいものだ、と思った。
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