ミステリィとオカルト好きの独り言
野島製粉
もしかすると暇つぶしになるかもしれない話
第1話 人肉を食べそうになったという人の話
初回からこんな話題で恐縮だが、人肉を食べそうになったという話を聞いたことがある。私がこの話を聞いたのは平成の最初の頃だったが、話してくれた人が昔に経験したことなので「それ」があったのはさらに昔ということになる。これは昭和の時代の出来事だと思っていただきたい。
人肉を食べそうになった、という体験を話してくれた人を以後Cさんと呼ぶことにする。
この話が出てきたのは、何気ない雑談でのことだった。
「俺さあ、人の肉を食べそうになったことがあるんだ」
私は、しばらくCさんの言っていることが理解できなかったと思う。Cさんはスポーツマンで、豪快で明るいというか陰を感じさせない人である。オカルト関連の怪しい話題が好きな私とは、正反対であると言っていい。
困惑しつつ、ちょっとわくわくしながら聞いた話が以下のものである。
Cさんは、若い頃からスポーツに打ち込んでいた。しかし、熱中しすぎたせいか腕を怪我をしてしまったそうだ(練習のしすぎが原因と言っていたような気がする)。医者に診察してもらったところ、肘のあたりの肉を一部切除しないといけないことになったらしい。
Cさんは、早く治して練習に復帰したかったので、すぐに処置してもらった。そこに、医者が意外なことを言ってきたそうだ。
「切除した肉はどうしますか? 希望するなら持って帰ってもらってもいいですよ」
これを聞いたCさんは戸惑ったそうだが、せっかくだからと持って帰ることにしたそうである。
自宅に戻ったCさんは、切除された肉片をじっくりと眺めてみたそうだ。元は自分の肉体の一部ではあったのだが、肉片になると焼き肉用の肉みたいだな、と思ったらしい。そこで、この肉を食べてみたらどうかな、という考えを浮かんできたそうだ。
念のために書いておくが、Cさんは別に猟奇的な趣味があるわけではない。当時は、とにかく早く治したいという思いが強かったので「元は自分の肉体の一部だから、食べれば早く治るのでは」とか「思い切ったことをして気合を入れよう」などと考えたそうだ。体育会系的思考というか、戦国武将のような考え方である。
というわけで、Cさんは切除された肉をフライパンにのせて焼いてみた。すると、肉はジュウジュウと音を立てて縮んでいったそうだ。これを見たCさんは、かわいそうだと感じたらしい。そもそも、腕の肉を一部切除することになったのは、自分が練習で酷使したせいである。長い間がんばってくれたのに、焼き肉みたいに食べるのはどうなのだろう、そう思ったらしい。
結局、焼いた肉は食べずに、庭に小さなお墓を作って埋めたそうだ。
Cさんは、この話をちょっと照れたように話してくれた。
「いやー、よく考えたら自分の肉って言っても、人肉だよな。もうちょっとで、人肉を食べるところだったんだ。どんな味かは、気になったけどな。はっはっは」
豪快に笑ったCさんには、暗い影とか後ろめたさというもの全くが感じられなかった。これはCさんの人柄によるところだろう。
Cさんは、今でも元気にスポーツに打ち込んでいるそうである。
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