第49話 私の好きなミステリーのシチュエーション
「あなたの好きなミステリーのジャンル、あるいはシチュエーションはどんなものですか?」
誰かにこの質問をされたら、たくさん語りたいことがある。しかし、現実では質問してくるような相手もいないし、されたこともない。かといって、ミステリーのファンが集う場所などで語り合えるほど詳しくはないという、中途半端な状況である。
なので、エッセイにしてみようというわけだ。私の細かい趣味を知りたい人がいるとは思えないが、居酒屋で隣に座った人に語りかけるより迷惑は少ないだろう。間違ってこのエピソードを開いてしまったとしても、閉じればよいだけである。
さて、ミステリーには色々なジャンルがあり、ミステリーの定義自体も人によって異なるだろう(私の知らないところで、明確に定められてるのかもしれないが)。
なので、要領を得ない表現になってしまうのだが、私が好きなシチュエーションというのは『登場人物が不思議な状況に置かれ、あれこれと推理する』というものである。はっきりと事件が起こっていなくてもよくて、犯人が存在しないものでもかまわない。とにかく、魅力的な謎があって登場人物たちがあれこれと議論をするという状況が楽しいと感じるのである。自分でもあれこれ推理して、大抵の場合は的外れなのだが、ああでもないこうでもないと推理をこねくりまわすのが面白い。
1日の仕事を終え、寝る前に日常の雑事を忘れて、ミステリーの中の謎について考える。良いミステリーに出会えたときは、幸せな時間だ。
私の拙い説明だと、どんなものだかよくわからないと思うので具体例をあげようと思う。まず思いつくのは、西澤保彦氏の「麦酒の家の冒険」である。ネタバレにならないように軽くあらすじを説明しておく。
大学生の主人公たちは、ある事情で山中にある別荘に迷い込んでしまう。そこは家具のない奇妙な別荘だったが、ある部屋のクローゼットの中には、隠すように置かれた冷蔵庫があった。冷蔵庫の中には、何故か大量のビールが入っている。主人公たちはそのビールを飲みながら、この状況について推理をする、というストーリーである。
ちなみに、この小説は長編である。私は、あらすじを読んだとき、これでどうやって話をふくらませる、あるいは展開させていくのだろうかと思った。だが、そんな懸念はすぐに晴れたのである。主人公たちが、奇妙な状況についてあれこれ推理を働かせるのだが、これがとても面白い。真面目な推理から、思わず笑ってしまうような推理までもが飛び出すのだが、変な推理が意外と説得力があったりと読んでいて飽きないのである。推理によっては、主人公たちが迷い込んだ別荘の意味まで変わってくるので、ちょうどビールの飲みすぎたかのような酩酊感のようなものを覚えたりする。いつしか、自分も登場人物に混ざってあれこれ推理しているような気分になるのだが、これが楽しい。
もちろん登場人物たちも魅力的であり、謎を推理する以外にも大学生の青春ものとしても読めるのではないだろうか。
私は『登場人物が不思議な状況に置かれ、あれこれと推理する』というシチュエーションが好きなのだが、自分ではあまり意識していなかった思う。気付いたのは、小説を書き始めてからである。このカクヨムに投稿している以外にもいくつか書いているのだが、自然とこの要素が含まれていたのだ。もちろん程度の差はあるが、ミステリー以外でも意識せず書いていたので驚いてしまった。気づかないうちに、ずいぶんと影響を受けていたわけである。
私の趣味を語るようなエッセイになってしまったが、とにかく西澤保彦氏の「麦酒の家の冒険」はおすすめである。出版が1996年だから、現在流行っているものとは雰囲気が異なるかもしれない。だが、かえって新鮮に読めるような気もするのである。
今なら電子書籍で読めると思うので、興味を持った方にはおすすめです。
あっ、他にも恩田陸氏の「MAZE」も良いですよ。こちらは、西アジアの某国が舞台で、荒野に立っている奇妙な白い建物の謎を探るというものです。この建物は古くからあり、入った人間が消失するという伝承が残されている、という興味深い設定ですね。あらすじではミステリーと紹介されていましたが、サスペンス風でもありホラーや伝奇的な要素もある、ジャンルにとらわれない名作だと思います。
おすすめを語り出すと長くなりそうなので、エッセイはここで終わることにします。
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