第40話 同伴出勤って何のためにするの? うっかりキャバ嬢に聞いてしまった話 後編
仕事帰りに寄ったキャバクラで、運良く人気嬢のNさんについてもらったのだが、私はうっかり変なことを口走ってしまった。
「……同伴出勤って何のためにするんだろう?」
つい考えたことを口にしてしまったのだが、言ってから後悔した。そんなものは決まっているではないか、魅力的なキャストとお近づきになるためだろう。私が疑問に思ったのは、そのための手段としては費用対効果というかコストパフォーマンスが悪すぎるのではないかということである。
人気のキャストと同伴出勤するとなれば、それなりのお店で買い物なり食事をすることになるだろう。学生同士のデートなどではないのだから、店まで歩くだけというわけにはいなかない。はっきり言ってしまえば、相当にお金がかかるということなのだ。
馬鹿なことを言ってしまったと思ったのだが、人気嬢のNさんはさすがであった。どうやら、私が疑問に思ったことを察してくれたようなのである。
「私が思うのは、見せつけたいということじゃないかと思うんです」
「……見せつける?」
首をかしげる私に対して、Nさんはにこやかな笑顔で話を続けた。
「それは、周囲の男に人たちにですよ。『俺はこんな金のかかりそうな女を連れてるんだぜ』って、感じですね。ですから、私は同伴出勤の時は、思いっきり派手で、一目でキャバ嬢ってわかる格好で行きますよ」
「なるほど、そういうことか。同伴出勤の目的っていうと……まあ、その親密になることしか思いつかなかったから」
「ふふ、当然そちらの目的もあるでしょうね」
私は、Nさんの話にすっかり感心してしまった。周囲の男性への見栄、あるいは誇示というのは言われてみれば納得できる話である。
少し想像してみてほしい。いかにもキャバ嬢という感じの女性を連れた男性が居たらどう思うだろうか。当然ながら、良くは思わない人はいるだろう。無粋と感じる人もいるだろうし、品がないと思う人も多いだろう。特に女性の方は、反発する人が多いのではないのだろうか。お金を使って女性をアクセサリー扱いして連れ回すような行為だと、不快に感じるかもしれない。
とはいえ、羨ましいとかすごいと感心する人が存在するのも事実だろう。私などは、興味の無いフリをしつつ内心では「いいなあ」と思うタイプである。表に出すかはどうかとして、こんな風に考える男性は少なからず居ると思うのだ。
昔、職場の先輩が言っていたことを思い出す。その人は飲み会の席などで「結局のところ、男の競争相手は男だ」とよく言っていたように思う。
意味としては、女性の社会進出が進んだとはいえ、大抵場合は男性の方が有利な職場が多い。業界や会社によっては違うところもあるのだろうが、完全に同じところは少ない。ならば、同じ条件で競争して勝つことを考えれば、男性の競争相手は同じ男性になる、というような意味である。
仕事をしていて、競争を意識しないという人はあまり居ないのではないだろうか。もちろん、お金さえもらえれば良い、満足できる仕事さえできれば良いという人も居るだろうし、そもそも競争が生じないような仕事もあるだろう。だが、これはまれなケースであると思う。
私の体験で言えば、初めて就職したところでは多くの同期が居た。最初は、みんなそれぞれの配属場所で若手として扱われていたように思う。それが数年経つと差が出てきたのである。優秀だと言われていた同期は本社へ異動となったり、仕事ぶりが評価された同期は早くも部下を持つ立場になったりしていた。
社会人の競争が学生時代と違うのは、給料や会社での立場、それに社会的地位に直接反映されてくることである。同じ時期に入社した同じような条件の人間同士だと、どうしても差を意識せざるを得ないだろう。また、最近は変わってきているのかもしれないが、男は仕事の出世競争で優位に立てる者が素晴らしい、というような風潮もあるように思う。
こんな風に考えていくと、キャバ嬢との同伴出勤で、周囲の男性に自らの力を誇示したいという心理が理解できるのではないだろうか。もちろん、男性一般に通じるという類の話ではないと思うが。
もはや何の話かわからなくなってきたが、同伴出勤って何のためにするのかキャバ嬢に聞いたところ、個人的にとても納得ができる答えが返ってきたということである。
余談だが、時間がきてNさんが席を離れるときに次のようなことを言ったことを覚えている。
「ありがとうございました。ふふ、今日はお友達と話しているみたいで楽しかったです」
さて、これはどのように解釈すればいいのだろうか。
世の中も、小説の世界に負けず劣らずミステリィに満ちている気がするのである。
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