第35話 新聞に奇妙なチラシがまざっていた話
昔、私の家では新聞をとっていた。家は田舎ではあったのだが配達員の方の努力のおかげか、早朝にはきっちり届いていたように思う。考えてみれば、すごいシステムである。
届けられる新聞には、折込チラシもたくさん混ざっていた。多くはスーパーなどのセール情報や、新装開店した店の宣伝だったが、その中に奇妙なものが混ざっていたことがある。
あれは、2010年頃のことだったと思う。
ある日、たまっていた新聞紙をまとめようとして、一枚のチラシが目にとまった。それはA4ぐらいの白い紙に、黒い文字が印刷されているだけのシンプルなものである。だが、内容にインパクトがあった。
『墓石を探しています』
タイトルにはそう記されていた。一瞬、意味がわからなかった。いや、落ち着いてもよくわからなかったのだが。
首をかしげながら内容に目を通すと、どうも隣町のお墓で墓石が盗難にあったということらしかった。何でも、江戸時代から続く由緒正しいお墓があったそうなのだが、関係者が墓参りに行くと墓石が無くなっていたらしい。それで、無くなった墓石は大事なものなので、情報を求めているということであった。
内容は理解したものの、奇妙な話だと思った。墓石を盗む人がいるのだろうか。なにか特別なお墓だったのだろうか。だが、隣町に歴史的に有名な人が埋葬されているという話は聞いたことはない。仮に埋葬されていても、墓石に価値がでるとは思えないのである。もちろん、関係者にとっては大事なものなのだろうが、盗んでまで欲しいと思う人がいるのだろうか。
不思議に思った私は、そのチラシをなんとなく保管しておくことにしたのだった。
さて、2024年になり、このエッセイを書いているときにチラシのことを思い出したのだが、どこへ保管しておいたのかわからなくなっていた。盗まれた墓石について、もう少し詳しいことが書いてあったような気がするのだが、確かめることはできなくなってしまったのである。ちなみに、この件が解決したという話も聞いていない。あらためて考えてみても、不思議な話である。
ここで話が終わってしまうと、あまりにも内容がないので、墓石が盗難にあうケースがあるのか、ネットで軽く調べてみることにした。
適当に検索してみたところ、出てきたのは線香立てや花立てが盗まれたという事件である。どうやら金属が目当てのようで、墓地から大量に盗まれる事件が発生したようだ。そんなものを盗んでどのくらいのお金になるのかと思うが、墓地は滅多に人は来ないし、ある意味手軽だから犯行に及んだということだろうか。
他には、遺骨が盗まれるという事件もあった。こちらは有名人の遺骨が、熱狂的なファンや身代金目当てで盗難にあったということらしい。罰当たりというか冒涜的な行為だと思うが、人間は色々なことを考えるものである。考えてみれば、ピラミッドや古墳なども墓荒らしにあっているところは多いわけで、お墓は昔から狙われていたのかもしれない。
こんなわけで、お墓が荒らされるという事件は意外とあるようだ。ただ、墓石が盗まれたというケースは見つからなかった。少し調べてみると、物によるのだろうが墓石は結構な値段がするようである。それでも盗まれたという事件があまりないようなのは、重量があるからだろうか。線香立てのような小物ならこっそり持っていけるだろうが、墓石はそうはいかないだろう。1人では無理だろうし、機械などを使うとさすがに目立ってしまうと思う。
さらに、苦労して墓石を盗んだところで、売れるのかという問題がある。すでに彫られた文字は削らないといけないだろうし、そういった不審な石を扱うルートが存在するのか怪しいと思う。戦国時代には、城の石垣に墓石を使ったという話があるそうだが、現代で石材不足ということもないだろう。
ということで、例のチラシにあった墓石盗難事件は謎のままである。もしかすると盗難事件ではなくて、大雨などで流されたのかもと考えたが、チラシを紛失してしまったので細部を確認することができない。
結局、謎のまま終わってしまったのだが、新聞の折込チラシに入れるぐらいのことなのだから、関係者にとっては切実だったのだろう。
実は、私の知らないところで解決していた、ということだったら良いなと思っている。
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