第34話 友人たちと心霊スポットを見に行くという、怪談のような体験をした話
暇な大学生たちが心霊スポットに肝試しに行く、というのはホラー小説や怪談話によくあるシチュエーションである。実際にやる人が多いのかは不明だが、シチュエーションとしては面白いと思う。いかにもありえそうだし、もしかしたら自分の身にも起こるかもしれないというリアリティがある。
とはいえ、実際にこのような体験をした人は少ないのではないだろうかと思う。そもそも心霊スポットに行きたがる人は少数だろうし、都合よく近くにそんな場所があるわけでもないだろう。
ところがである。ふと思い出したのだが、私は大学生の時に友人たちと心霊スポットを見に行くという体験をしていたのだった。ホラーとかオカルト関係が好きなわりに、このエッセイを書くまで忘れていたのだから自分でもあきれてしまう。
私が大学1年か2年の頃の話である。
お世話になっていた先輩に誘われて、心霊スポットとして有名な廃トンネルを見に行こうということになったのだ。発端、というかきっかけが何だったのかはよくわからない。私が大学生だった頃は、誰が企画したかわからない飲み会とか、意図の不明なイベントが結構あって、参加する方も何となく参加していたような気がする。大学生一般がそうだったとは思わないが、当時の私の周囲はそんなノリだったと思う。
先輩が見に行こうと言ったのは、廃線になった電車のトンネルだった。この廃トンネルは、私が通っていた大学では割と有名な心霊スポットであり、新入生歓迎会などで語られていた記憶がある。
詳しい話は忘れてしまったが、このトンネルは険しい山を通る路線にあり、かなりの難工事だったそうだ。せっかく完成したトンネルではあったが、死傷者が多数出る事故が起こってしまい廃止されることになった。ここに「出る」というわけである。怪談としてはよくあるタイプの話ではあるが、実際に現場を見に行ったことはない。また、見に行ったという話は聞いたことがなかった。少し面白そうだ、と思って私は参加を決めたと思う。
時期は、5月頃だっただろうか。先輩と物好きな数人で、心霊スポットと噂される廃トンネルへと向かった。当然のごとく、参加者は地味な男子学生ばかりである。
時刻は真夜中……ではなく、明るい日中だった。企画した先輩が言うには、険しい山に掘られたトンネルなので、道がわからなくなっては困るから、明るい時間帯にしたそうである。初めて行く場所でもあるし、考えてみれば当たり前の配慮だろう。
私たちは、電車を使って目的地の近くまで移動した。例のトンネルは使われなくなったのだが、路線自体が廃止されたわけではなく、別の場所にトンネルを掘ってルートを変更したので、電車で近くまで行くことができるのである。
降り立った駅は、見事に山の中であった。駅周辺は、自然公園とかキャンプができるレジャー施設などがほそぼそと営業している。テニスコートなんかもあって、大学生ぐらいの男女が楽しそうにプレイしていたが、私たちはそれを見ないようにして山へと向かったのであった。
しばらく歩くと、ちょっとした集落に出た。古い家がぽつぽつとあって、畑や田に囲まれている。交通の不便な場所だと思うのだが、住んでいる人はいるようだ。私たちは先輩について歩いていたが、途中で道がわからなくなってしまった。先輩によると、山に入って行く道があるはずなのに見当たらないとのことである。
もしや怪現象かと思ったが、そんなことはなかった。ウロウロする大学生たちに、畑仕事をしていたおじいさんが親切にも道を教えてくれたのである。ただ、その道というのは、畑の脇にある草地であった。舗装されていないというレベルではなく、草原に踏み跡があって、かろうじて道っぽく見えるだけのものである。
私たちは、おじいさんにお礼を言って足を進めたが、心霊的とは別の意味で不安がでてきたのだった。
それから、私たちは山の中をひらすら歩き続けた。目的の廃トンネルは険しい場所に掘られ、それ故に事故などが起こって使われなくなったのだから、行くのが大変な場所にあるのは当然と言えば当然である。観光地ではないから、ルートを示す道標などはなく、道らしき場所から外れないように必死に歩くことになった。
1時間ほどして、ついに目的の廃トンネルに到着した。ごつごつとした岩肌に、ぽっかりと黒い口を開けたかのように見える廃トンネルは、思わず立ちすくんでしまいそうな存在感があった。
そこで私たちが感じたのは、得体のしれない恐怖……ではなくて、やっと見つけたという達成感である。1時間ほども、山の中を歩き回るのは割と辛かったのだ。最初の頃は、多少のわくわく感があったが、途中からは「俺達が一体何をしているんだ?」という疑問を感じていたのである。いかに暇な大学生といえども、無意味に山をさまよっただけというのでは、あまりにむなしい。
私たちは、暇な大学生ではあったが、一応の社会常識はわきまえていたので、トンネルに入るようなことはしなかった。私有地だろうし、こういった古い施設は危険も多いのである。
心霊スポットということだったが、特に感じるものはなかった。それよりも、これから再び1時間ほどかけて来た道を引き返さないといけない、ということのほうが恐怖であった。
以上が、私が大学生のときの体験である。ホラー好きのわりに忘れていたのは、理由があったようだ。特に面白いこともなく、オチもなかったのである。
この話を書いていて思ったのは、心霊スポットいえども交通事情が大事ということだろうか。あまりに不便な場所にあると、行く人がいないだろうし、行ったとしても恐怖よりも達成感が勝ってしまうのだ。私の場合だと、歩いている間にだんだんとホラー的な気分が冷めてしまった気がする。
暇な大学生たちが心霊スポットに肝試しに行く、という怪談での定番シチュエーションは、身近で交通の便の良いところに心霊スポットがないと成り立たないようである。
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