第54話 オカルトスポット探訪 泉の広場
*この文章は、かつて某所に投稿しようと思って途中まで書いたものです。
書きかけのデータを発見したので、せっかくなので完成させて公開することにしました。
2015年ぐらいのことだったと思うが、仕事で大阪に行くことになった。
せっかくの大阪だから、どこかを観光したいと思ったのだが、日中は仕事の用事が入ってしまっている。自由になるのは夜なのだが、そんな時間に行く観光スポットというのはちょっと思いつかない。代わりに美味しいもので食べようかな、と地図を眺めていたときにあることを思いついた。
それは、怪談で有名な「泉の広場」を夜に見てみようというものである。
みなさんは「泉の広場」の怪談をご存知だろうか。ネットで検索すれば、すぐに見つかると思うので気になる方は調べてみると良いだろう。
これから、軽く「泉の広場」の怪談について紹介するので、ネタバレが嫌な人は気をつけていただきたい。
大阪駅周辺の地下街には、泉の広場という場所が存在する。その名の通り、地下街に噴水があって待ち合わせ場所としても利用されているようだ。だが、この場所は良くないものを引き付けることもあるようで、恐ろしい体験をした人がいるという。
ある人が泉の広場を通りかかると、赤い服を着た不気味な女がじっと自分を見ていることに気づいた。その赤い女は様子が普通ではなく、目をそらそうと思ったが、目をそらすどころか身体が動かない。しかも、女がどんどん近づいてくるのに周囲の人はまったく気に留める様子はない。
女が間近に迫ろうとしたとき、不意に肩を叩かれたのだという。その途端、身体が動くようになり、女は恨めしそうな表情で去って行ったとのことである。
肩を叩いて助けてくれた人は、何か事情を知っているようだったが「ここには近寄らない方がいい」と言って去っていったのだった。
以上が、私が知っている「泉の広場」の怪談の概要である。うろ覚えなのだが、大筋は合っている思う。赤い服を着た女の目が白目の部分まで黒かったとか、助けてくれた人がある程度の事情を話してくれるなどのいくつかバリエーションがあったような気もするが。
私は、特に怖い話だとは思わなかったが有名な話のようで、怪談を集めたサイトとか本によく掲載されていた記憶がある。あるサイトでは感想欄に「あの場所は本当にヤバい」などと多くの書き込みがあったので、強く印象に残っていた。それが「泉の広場」の現場を見てやろうという動機である。
さて、大阪での仕事は思ったよりも順調に終わったので、まずは夕食を食べることにした。適当に入った店だったが、食い倒れの大阪などと呼ばれることもあって食事が美味しい。気分が良くなった私は、一杯やることにした。
行ったお店は、ガールズバーである。話し相手になってくれたキャストの若い女性は、地元出身らしく軽妙な関西弁がポンポンと口から飛び出してくる。おまけに趣味はホラー映画の鑑賞とのことで、普段はほとんど話すことのないオカルト関係の話題で盛り上がることができた。
大阪はええ街やなー、と当初の目的を忘れつつあった私だが、ふと我に返って女性に「泉の広場」のことを質問してみることにした。地元の人のだし、オカルト関連の話題も好きなようなので、興味深い話が聞けるのではないかと思ったのである。
ところが、女性の反応は今ひとつであった。
「泉の広場って、地下街のことやろ。うーん、あの場所って別になんもないと思うけどなあ」
「あれ? そうなの。怪談関連で有名だと思ったのだけれど」
「怪談って、どんな話?」
意外にも、女性は「泉の広場」の怪談を知らないようである。もしかすると、ネットなどのごく一部で有名なだけで、地元では話題になっていないパターンなのかもしれない。私は不思議に思いつつも、怪談の内容を説明した。
「ふーん。おかしな女かあ……」
キャストの女性は、どこか白けたような口調になった。さきほどまでは、神戸の怪談話を楽しそうに語っていたというのに、こちらには全く興味がないようである。
「その赤い服の女ってさあ、立ちんぼやないの?」
立ちんぼ、という言葉が若い女性の口から出てきたことに驚いたが、それ以上に軽蔑しきったような口調にもドキリとさせられた。さきほどまで楽しく話していただけに、落差が大きく感じられる。仕事上の取り繕った態度から、ドライな本音が現れたような気もした。
「あー、そいうものなのかなあ。まあ、ネットの噂なんてあてにはならないよね」
居心地が悪くなった私が適当なことを言ってごまかすと、女性も慌てて笑顔を浮かべる。
「うんうん、そんなもんやで。それよりさあ、映画の『呪怨』を見たんやけど……」
「あー、あれかあ……」
それから私は「泉の広場」の話題は出さずに、お店で過ごしたのだった。
店を出た頃には、夜の遅い時間になっていた。この時点で、「泉の広場」への興味は薄れてしまっていたが、せっかくなので見に行くことにした。
場所を確認してから地下街への階段を下りると、目の前に「泉の広場」があった。あっさりと到着してしまったので、拍子抜けしてしまったが、地下にある噴水というのはなんだか不思議な感じである。さりげなく周囲を観察してみたが、赤い服を着た女は居ない。夜の遅い時間になりつつあったが、さすがは大阪ということもあって通行人はかなり多い。
しばらく眺めてみたが、心霊スポットというかオカルトスポットとしては人通りが多すぎる気がした。地下街は駅につながっているし、店も多いので賑わった雰囲気である。正直なところ、何かが起きそうな気配は全く感じなかった。私としては、怪談話では有名だったが、現地に行ってみたら大したことがないというパターンである。
私は、少々がっかりしつつ駅へと向かったのであった。
*追記
怪談で有名な「泉の広場」だが、現在は噴水が撤去されてリニューアルされたようである。そのうち「泉の広場」と言っても、通じなくなるのかもしれない。この怪談が語り続けられるのか、忘れ去られのか、どちらになるのだろうか。
ミステリィとオカルト好きの独り言 野島製粉 @kkym20180616
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