第30話 ラブコメの主人公のような人が現実にも存在するという話

 2024年現在、カクヨムではラブコメが人気があるように感じられる。


 特に数字的な裏付けがあるわけではなく、ランキングや新着を見た感想だが、投稿される小説の数は多いと思う。それにしても、作者の方々は色々な設定やらシチュエーションをよく思いつくものだと感心する。私はラブコメのジャンルには詳しくないのだが、流行や人気の設定というものがあるのだろうか。

 こんなことを考えていると、過去にまるでラブコメの主人公みたいな人がいたことを思い出したので、今回はその話である。



 私が大学生のときの話である。

 大学時代は、実に中途半端な過ごし方をしていたと思う。勉強するわけでもなく、かといって遊ぶわけでもないという、無気力な学生であった。当然の帰結として彼女ができるはずもなく、私と似たような男子学生たちとダラダラと過ごしていたのである。



 ある日、私は数人の男友達と学生食堂で講義までの時間をつぶしていた。高尚な話題や建設的な議論をするわけでもなく、運良く彼女ができないかなあ、みたいなことをぶつぶつと言っていたような気がする。通っていた大学は共学なので、周囲には女子大生が沢山いる。なのに、少しも行動に移そうとしないのが当時の私であった。一緒に居た友人たちも同じような感じだったのではないだろうか……いや、そう思っていたのだが。

 そのうち、友人のL君が理想の彼女について語り始めた。


「俺はギャルと付き合いたいな。メイクをバッチリきめて、派手な服装でアクティブなタイプ。それでいて、俺に対しては一途っていうか、古風な面もありつつ……みたいな」


 当然ながら、周囲の男どもからツッコミが入った。ギャルはともかくとして、内面は古風とか無理だろうとか、趣味がおかしいとか、そんな女がいるはずがない、などなどである。それでも、その友人は「ギャルがいいんだよ」と主張し続けていた。

 私たちは、こうやって日々をだらだらと過ごしていたのだが、あるとき事件が起こったのである。



 友人の一人が、ギャルと付き合いたいと言っていたL君が制服姿の女子高生と一緒に歩いているところを目撃したのだ。女の子は、ギャルとは正反対の黒髪ロングで清楚な感じだったらしい。目撃した友人が言うには親密な雰囲気で、女子高生の方がL君に寄り添うような感じだったそうだ。


 私たちは学生食堂に集まって、L君に質問……というか、追及を開始した。彼女が欲しいと言っておきながら女子高生と付き合っているのはどういうことか、しかもギャルではなくて今となっては希少な黒髪ロングの子ではないか、などである。

 L君は何だか気まずそうにしていたが、少しずつ事情を語り始めた。



 彼は、私たちが通っている大学のある街の出身で、今も近くにある実家から通学しているらしい。一緒にいた女子高生は、近所に住んでいて昔からの知り合いなのだそうだ。

 L君がそう言うと、目撃者である友人が異議を唱えた。あれは、ただの知り合いという雰囲気ではなかった、という主張である。L君は困ったような顔をしていたが、仕方なさそうに話し始めた。


 L君と例の女子高生は、家ぐるみの付き合いなのだそうだ。家が近所だったので昔から仲良くしていて、それが今も続いているらしい。彼女が高校生になってからは、勉強を教えたり進路の相談にのったりしてあげていたそうだ。一緒に歩いていたのは、帰り道で出会っただけらしい。


 羨ましいというか、妬ましい話である。我々は皆一緒に、彼女が欲しいとぶつぶつ言っていた仲なのに、裏切られた気分だ。私たちが嫉妬のこもった追及を続けていくと、さらに驚愕の事実が発覚した。

 L君と黒髪ロングの女子高生は、どうも許嫁いいなずけっぽいのである。どうも、双方の親が彼らの仲を公認しているらしい。L君があれこれ弁解するには、幼い頃から両親が冗談っぽく言っていたら、女の子の方が真に受けてしまったそうだ。それは彼女が高校生になっても続いていて、親も含めてそういう雰囲気になってしまったらしい。



 L君から事情を聞いた私は、まるでラブコメの主人公の設定みたいだなと思った。しかし、これは現実の21世紀の話なのである。私たち地味な男子学生一同は、ため息をついたのだった。

 

 その後、例の女子高生の写真をL君に見せてもらった(我々が見せろ、と強く要求したのだが)。女の子はとても可愛く、我々の嫉妬とか憤懣がさらに燃え上がってしまった。L君が、なぜギャルと付き合いたいと言っていたのかは不明である。もしかすると、清楚なタイプと付き合っているから誤魔化す意図があったのだろうか。



 L君と私は専攻が違ったので、学年が上がると疎遠になってしまった。なので、あの女子高生とどうなったかわからない。だが、こうやってエッセイを書きながら思い出しても、やはり羨ましい話であった。

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