第7話 くねくね、という怪談について
一時期、ネットで怪談話を読むのに熱中していた時期があった。
書籍で読むホラー小説も良いが、誰が投稿したかもわからないネット上の怪談話というのは独特の雰囲気がある。どこかで聞いたような話やよくわからない話、それらに混じってときどき背筋がヒヤッとするようなものが見つかることもあるのだ。平凡な話だと思っていたら一部分だけ描写がやたらとリアルだったり、オチもなくひたすらに奇妙な話が続いたりなど、ついつい読んでしまう魅力がある。
そんなネット上の怪談話に有名なものがいくつかあるが、私が好きなのは「くねくね」である。作者はわからないようだが、ネットに投稿されて話題になり、いくつかのバリエーションが存在するようだ。
*これから「くねくね」の内容を簡単に説明しますので、ネタバレが気になる方は先を読まずにストップして下さい。「くねくね」の怪談話は、ネットで検索すればすぐに見つかると思いますので、それを読むと良いでしょう。このエッセイより、はるかに面白いと思います。
* * *
さて、「くねくね」には、いくつかのバリエーションが存在するようだが、おおむね次のような話だ。
舞台となるのは田舎で、畑や田んぼで「くねくね」と動く白い物体を目撃してしまうと、精神に異常をきたしてしまうというものである。白い物体は、人間のようだとも言われるが正体は不明で、知ってはいけないらしい。
私の要約がよろしくないかもしれないが、こんなシンプルな話である。くねくねと動く物体の正体は判明しないし、精神がおかしくなってしまった人はそのままで終わることが多い。
シンプルすぎて面白くない、という人もいるかもしれないが、私はそこが良いと思っている。なにしろ、くねくねと動く物体を見ただけでアウトなのだから対策のしようがない。正体がわからないからどうすることもできないのである(知ったら発狂してしまう)。
なんというか、通り魔的な存在というかスピード感だ。いきなり日常にやってきて、問答無用で理不尽を押し付けてくるのである。そこが、恐ろしくて不気味なのだ。
これに正体や因縁話のようなものが加わったら、怖さは一気に減ってしまうだろう。
例えば、くねくねの正体は、濡れ衣を着せられて地下牢に閉じ込められて死んでしまった人の怨霊だとしてみよう。陽の光の当たらない地下に居たから皮膚は白く、狭い牢屋生活で手足は萎えてフラフラとまるで身体をくねらせるように歩く、などである。
こういうもっともらしい因縁話をつけると、それらしくなるような気はするが、色々とツッコミどころができてしまう。世の中、非業の死を遂げた人はたくさんいるのに、どうして見ただけで精神にダメージを与えるような力を得たのか。あるいは、なぜ無関係な人に害をおよぼすのか、などである。
正体がわからないというのは、それだけで恐怖ではあるし、あらゆる可能性が想像できるということでもある。下手に正体を語らず、知ったら精神に異常をきたしてしまうとして、読者に想像させるというのはうまいやり方だと思う。
さて、この「くねくね」には関連するのではないかという怪談話があり、色々と考察している人もいるようだ。かくいう私もそういった話を人から聞いたことがある。あれは、1990年代の半ばあたりだっただろうか。知人が、山で不思議な体験をしたと語ってくれたのである。
山登りが好きな知人のMさんは、夏に日本アルプスへの登山を計画していた。ところが、仕事に追われて全くトレーニングができていない。そこで何とか時間をやりくりして、休日に地元の山に登って身体を慣らすことにした。山といっても、観光地でもなく、名前もよくわからないような普通のところである。時間が無いので、とにかく近い場所ということで選んだのである。
Mさんは山を登り始めたが、なかなかきついところだったそうだ。高い山ではないが、林業従事者しか来ないようなところだから道の状態が良くない上に荒れている。杉やヒノキが植えられた山だったので、常緑の高い木々にさえぎられて日中というのに薄暗い。
暗い山道を歩いていると、Mさんはふと後ろが気になったそうだ。振り返ってみると、木々の間に何か白いものが見えたような気がした。だが、目を凝らしてみると、何もない。Mさんは不思議に思ったが、そのまま歩き続けたそうだ。
しかし、歩いていると同じようなことがたびたび起こったらしい。視界の端に何か白いものがチラッと見えるのだが、確認してみると何もないという具合である。さすがにMさんは気味が悪くなってきたが、久しぶりの登山で神経が過敏になっているのだろうと自分に言い聞かせたそうだ。
頂上に着いたが、木々が茂っているので景色はあまり良くない。それでもMさんは、ほっと一息つくと遠くに見える山を眺めたそうだ。すると、向かい側の山の木に白い鳥が数羽とまっている。いや、鳥に見えるが鳥ではない。Mさんが目を凝らしてみると、白い鳥のようなものは数羽ではなかった。木にびっしりと白い何かが大量にいる。それどころか、向かい側の山全体のいたるところに白いモノがいた。
それに気づいたMさんは、背筋が冷たくなるような恐怖を感じたそうだ。身動きできず、その場に立ち尽くしていたそうだが、ふと我に返ると白いモノは一つ残らずなくなっていた。
時刻はすでに夕方になっており、Mさんはわけがわからないまま急いで下山したということである。
以上が、私が聞いた話である。これを聞いたのは1990年代だったと思うので、わりと昔の話であると思う。どことなく「くねくね」と共通点があるような気がするのだが、よくわからない。
いや、わからない方がいいのかもしれない。
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