第32話 温泉を掘り当てよう

 情熱のサラサラ・マンダー、サラマンダー♬

 燃えるあたしはサラマンダー♬

 全身燃えるわ、情熱の炎、あたしに触れたら、火傷するわよ♪


「ハイッ、サラサラ・マンダー、サラマンダー。サラサラ・マンダー、サラマンダー」


 ご一緒に!!


 腰をフリフリ歌い出す火の精霊サラマンダー(燃えるトカゲ)。

 歌うことを強要されているようなので、手拍子付きで「サラサラ・マンダー、サラマンダー」と声を合わせてみる。


 ふぉっふぉっ、と笑うノームのおじいちゃんも、たっぷりした髭をフルフルとバウンドさせながら手拍子を始めた。


 で、サラマンダーはひとしきり歌うと満足したのか。


「あなた、気に入ったわ、ダーリン!!」


 サラマンダーは猛スピードでわたしの体に這い上ってきた。

 熱っ……くはない。燃えている割に温度は低い。といってもカイロを押しつけられたような熱は感じるけど。


「ねえダーリン、温泉欲しくない?」

「へ?」

「お・ん・せ・ん」


 肩まで登ってきたサラマンダーは、耳元でそう言う。

 温泉? 温泉は欲しいというか? え、旅行の誘いかな。


「どう、お・ん・せ・ん。欲しくない? 欲しいわよね、温泉? ね、ね、ね?」

「……くれるものなら」


 土地でも旅行の誘いでも、温泉入浴剤でも。

 あ、でもうち風呂ないから入浴剤はいらないや。


「あげるわっ!!」


 サラマンダーは耳元で叫ぶと、トウッ、と肩から地面まで飛び下りた。すちゃっと着地すると、気合を入れるように燃え盛る炎がぶおりと勢いを増す。


「グツグツグッツン。燃えろマグマ!! 吹き出せ温泉っ!!!」


 ピロンッ♬


【上機嫌のサラマンダーが温泉を掘り当てようとしています。続けますか?】


 ええっ、温泉ってそういうこと!?

 つ、続ける、続ける。あっ、でもいきなりお湯が噴き出しても困るな。えーっ、どうしよ。


「ノームのおじいちゃん!!」

「ふぉっふぉっ、なんじゃ、お嬢ちゃん」

「温泉用の土地くださいっ、あっちに!!」


 果樹が並ぶ向こう側を指差すと、ノームはふぉっふぉっと目を細めて笑い、


「10万コインです」


 10万ッ!! 無理、そんなのポンと出せない。


「牛乳あげるから、もうちょっとまけて?」

「ふぉっふぉっ。12万コインです」


 値上がりしたっ。牛乳お嫌いでした? すみませんねっ。


「グツグツグツグツ……発見!!!」


 ぐらぐらぐら……

 ぐらぐらぐらぐら……


 「え、地震?」

「ふぉっふぉっ、……ふぉ?」


 ノームのおじいちゃんの足元がいちばん揺れてる。

 地面が盛り上がり、めりっめりっと地割れが起きて——。


 ぶしゃあああああああ!!!


「あーれーえぇぇぇ」

 

 ……きらーんっ。


 ピロンッ♬


【温泉が噴き出しました】

【建設アイテムに温泉施設が追加されます】


 ノームのおじいちゃあああんっ。


「よく吹き飛んだわね」


 やり切った顔で空の彼方を見上げるサラマンダー。

 ノームのおじいちゃん、吹き出す温泉でどっかに飛ばされていっちゃったけど、大丈夫かな。12万コインとか言い出すから、罰当たったんじゃないの。


🍃


 畑仕事のあとの温泉は最高です。

 汗を流してさっぱり、肌はつるつる。

 良い湯だなあ。


「ぴーぃ」「くーぅ」「しーぃぃ」

「ほげーぇ」


 ピクシーたちも桶に湯を張り、ぷーかぷか漂う。

 幻獣のヒッポちゃんもいっしょに入浴中だ。あのギロッと目が若干和らいで気持ちよさそうにしている。


 木製の浴槽に周囲を竹で囲った和風づくり。

 湯口はトカゲのかたちになっていて、ぱっかり開いた口から、ジャバアアアアアと温泉かけ流しです。


「どう、温泉って最高でしょ、ダーリン。湧き出す情熱って最高でしょっっ」


 トウッと竹の囲いの上から湯舟に飛び込むサラマンダー。彼女が燃えるわ燃えるわ、と歌い出すと、ぐつぐつ、少しお湯の温度が上がった気がする。


 結局、飛んでったノームのおじいちゃんから新しい土地は購入できてないんだけど。まあギリでスペースがあったから、温泉を建設。こうして無事、お風呂が完成しましたー!



 

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