第54話 ノームのおじいちゃんが二人?

 幻獣フライングレースに出場して優勝賞金1000万コインをゲットしよう!!


「——というわけで、ヒッポちゃん。訓練開始ですよ」


 わたしの気合は十分です。

 あのあとショッピングモールで乗馬服とブーツ、手綱に鞍、安全ベルトなどなど。フライングレース出場に必要な道具はばっちり用意しました。


 あとはヒッポちゃんが飛ぶだけっ。外に出て訓練訓練!!

 さあ、羽ばたくのです、その立派な両翼で大空の彼方へ、いざ行かん!!


「ほげー……」


 ダルそうだなっ、もう。ヒッポちゃんは片側の蹄に体重を預けて、ほげーとしている。タマゴだったヒッポちゃんも、今ではすっかり成長してロバくらいの大きさはあるんだけどな。人がまたがって乗っても平気そうっていうか。でも、もしかしてまだ幼鳥なのかなあ。


「ヒッポちゃん、とりあえず羽ばたいてみてよ。いきなり人を乗せて飛べとは言わないからさ」


 励まして見ても、ヒッポちゃんは「ほげー」。全然羽ばたこうとしない。というか動きもしない。立ってるだけマシだろ、って態度だ。


「この大きな羽、飾りじゃないでしょ、ちょっと広げて見てよ。大きさ見てみようよ」


 前半身は鷲のヒッポグリフのヒッポちゃん。すばらしく立派な翼は、強引に広げてみると片翼だけで1メートル、いや、1.5メートルくらいある。ヒッポちゃんのお尻って肉付きよくてでっぷりした馬尻なんだけど、これだけ大きな翼で羽ばたけば空を飛ぶなんて楽勝でしょ。


 ……と思うんだけどなあ。


「やる気ないなあ」


 人力で羽を上下に動かして見ても「ほげー」。

 馬尻を押して前に進まそうとしても「ほげー」。

 やけくそでピクシーのしーを鼻先に持って、「ほーらほら餌ですよ」とやっても「ほげー」。


「もうっ、あんたに1000万コインかかってるのに、やる気出してよ!」


 きーっ、てなりそうです。


「しーっしーっしーっ!!」

「ああ、ごめんて。冗談だよ、じょーだんっ」


 手の中で抗議するしーを解放すると、どぴゅうーんっとどこかに走って逃げていってしまった。ハア、みんな協力的じゃないね。1000万コインが欲しくないのかよ。


「急激にわたしもやる気失ってきたかも。アマチュア園芸家にレースで優勝は無理ってことかなあ」


 いじけて地面の草を抜いて投げていると……。


「お嬢ちゃああん、元気しとるかねー」


 ……あの声は。


「ノームのおじいちゃん——と、あれっ、ご兄弟ですか?」


 いつもの赤い三角帽子のノームのおじいちゃんの隣に、そっくり同じ顔のノームがもう一人いる。でもこちらは三角帽子は緑色だ。だけどモジャモジャの立派な髭に小柄な背丈、テントウムシみたいに背中が丸くなった体型などは瓜二つ。


 持っている杖も同じで、てっぺんについているキノコも一緒。ただしこっちのキノコは赤じゃなくて緑。


「ふぉっふぉっ、はじめまして。じいさんがいつも世話になっております」


 緑帽ノームがぺこ、と頭をさげてくれるので、「いえいえ」とお辞儀し返す。まあ確かに世話してますね。よく露天風呂に入りに来てはピクシーたちに何やかや注文して長湯して帰って行きます。


「実はな、お嬢ちゃん。ばあさんにも温泉に入らせてあげよう思うて今日は連れてきたんじゃよ。な、ばあさん」


「じいさんばっかりズルいと思いまして。わしも入らせてもらえますかねえ?」

「ええ、それはべつにかまわな——ばあさん?」

「そうそう。わしら仲良し夫婦」

「あらやだ、じいさんったら」


 肩を組むいつもの赤帽ノームに、ポッと頬を染める緑帽のノーム。


 ……えっと、おばあさんってことは女性だったんですね。すみません。だってあまりにもそっくりというか、あまりにもモジャモジャな立派な髭をお持ちなもんで。よ、よかった。「そちらのおじいちゃんは」なんてうっかり言わなくて。あらあらお二人で入浴ですか、仲良しですねえ。


 ——少々、時間が経過して。


「良いお湯じゃったわい」

「肌もすべすべ、身体ぽかぽか」


 湯上りのふたりに我が家の牛ちゃんからとった牛乳を——出しかけて前に土地を値上げされたのを思い出し、麦茶を渡す。ぷはーっとどっちもご満悦だ。


 しかしながらふたりとも帽子をとっているから、どっちがどっちか……あ、緑の帽子を手にしたから、こっちがおばあちゃんノームだね。


「ほれ、ばあさん、帽子」

「あらじいさん、サンキュッ」


 ちがった、優しいおじいさんが渡してあげたんですね、ということはこっちがおじいさんで、こっちがおばあさんか。帽子装着してくれないと全然わかんないなあ。


「あっ、そうそうノームのおじいちゃん」

 この間のこと、謝罪しとかなくちゃ。

「オナラしたとか言ってごめんね。実はあのあと……」


 ——🍃ただいま説明中🍃——


「だからワシ言ったろ。オナラじゃないって」

「ね、ごめんごめん」


 はっはっはっ、と二人して笑ってたんだけど。


「ちょっとじいさん、その話、どういうことかね?」


 おや、おばあさんノームの表情が険しい……?


 

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