第31話 燃え盛る火の精霊、サラマンダー

 モー、モー。

 コケコッコー。

 ほげー。


 今日も賑やか。牛が二頭にニワトリ小屋は二つで白と黒、合計10羽いる。それに幻獣ヒッポちゃんも順調に育っていて、今では大型犬くらいの大きさにまでなった。


 ピロンッ♬


【羽毛布団が完成しました】

【経験値がアップします】


 ふひー。やぁっと縫い終わった。


 手縫いでちくちく、フトンを仕立てるのはさすがに疲れたよ。

 

 中の詰め物はヒッポちゃんの抜けた羽根。

 どんどん大きく育っていて、どっさり羽根も抜けていき、捨てるのももったいないってんで、完成しました、羽毛布団です。


「ピクシーたちもお手伝いありがとね。休憩におやつ食べましょうかね」


 牛乳やバターは市場で買ってたんだけど、今じゃ自家製ですよ。

 そうそう。布団にした生地だってね、畑で綿を育てて、糸を紡ぎ、機織り機でギーコンバーコン……。


「ここまで取り組む予定じゃなかったんだけどな」


 このゲーム、どこまでやらせるつもりだ。


 まあほとんどの作業はピクシーたちにお任せ。紡ぎ車や機織り機は購入したけど、あとは「よろしくー」だもん。アイツら、イタズラピクシー時代が嘘のようだな。特にくーは機織りが上手だとわかった。


 この前も真剣な顔して複雑な模様を織り込んでいたし、草木染にも興味があるらしい。すごいな、その技術と好奇心。身振り手振りで藍染がやりたいってアピールしてきたんだよ。だから植えたよ、藍。それからアカネまで植えてあげた。ミシン買ってあげたら、誰か服を仕立てるかもしれない。


 とまあ、そんな具合で。

 家の設備も工房とか加工部屋とか。

 キッチン以外にも着々と部屋数が増えていっている。


 だけどアレがまだない。

 それは……。


「お風呂っ。シャワーすらないよ。ゲームの中とはいえ汗かくし、さっぱりスッキリしたーい!」


 でもウインドウで何度確認しても、建設アイテムにお風呂が出てこない。そういやこの家、トイレすらないじゃん。まあゲームの中、うっかり漏らしたら現実で——じゃなくて。


「風呂、風呂、風呂っ。それはあっても困らない、むしろ、あるべき!!」


 なんて叫んでたら。


「お嬢ちゃあああん、元気しとるかねー?」


 おや。あの声は……。


 🍃


「やっぱり。ノームのおじいちゃん!」


 土っ地、土っ地♬

 土地はいくらあってもいいよね。植えるものも建てるものも、たくさんあるんだから。うっきうきで駆け寄ると……。


「燃えるわ燃えるわ、あたしの情熱は燃え続けるのよ、ダーリン!!」


 トカゲがいる。真っ赤なトカゲだ。真っ赤というか燃えてる?


「ふぉっふぉっ。がんばってるお嬢ちゃんに、紹介したい人——じゃなくてトカゲがいてね」


 髭をゆらして笑うノームのおじいちゃん。その足元には燃え盛る炎に包まれながら、「燃えるわ燃えるわ、ダーリン!!」と叫んでいるトカゲがいる。


「あのー、そのトカゲ、燃えてますけど大丈夫ですか?」


 黒焦げにならないのかな。紹介って何? 名物トカゲの丸焼きでも食べろと?


「あたし燃えてるわっ、情熱的な女、サラマンダーよ、ダーリン!!」


 くわっ、と大口を開けるトカゲさん。普通のトカゲサイズというか、小さくて手のひらに乗るほどなんだけど、出している熱が激しいというか。近くにいると、ちょっと汗が出てきてしまう。


 ピロンッ♬


【火の精霊サラマンダーがあなたに興奮しています】


 こ、興奮!? えー、ちょっとごめんなさい、意味わかんないです。

 とりあえず、火事になるんで燃えるのやめてもらえます?

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