第38話 執事ケット・シーのオセロさんはニボシクッキーがお好きです

 タビーさんのお宅に招いてもらい、さっそくおみやげのニンジンケーキを頂きまそう、ってことで、リビングに通してもらった。


 庭に面した側が全面ガラス張りになっていて、日当たり良好。草花の茂みで、虫を追いかけたり互いにじゃれ合ったりしているケット・シーたちのカワイイ姿も見放題になっていた。それに室内にもケット・シーがいっぱい。


 日向で腹を出して寝ている子、ベッドで丸くなっている子、梁の上で四本足をだらりと投げ出している子も頭上にちらほらいる。もちろん、元気にうろちょろしている子だって。


「こんニャちはー」

「いらっしゃいませニャの」

「ミャーッス。ゆっくりしていってニャ」


 ……猫天国がココにある。


 執事ケット・シーのオセロさんは人間サイズあるけど、そうじゃなくて、普通の猫サイズで二足歩行している子たちが、「にゃーにゃー」に人語を交えて話しかけてきてくれた。握手してくれる子も。やばい。感激して足の力が抜けて倒れそうだ。なんとか踏ん張るけど、顔の筋肉はデロデロにふやけてしまった。


「ケット・シーってこんなに可愛いんだね。猫好きにはたまらんな」

「でしょー。わたしも農場ゲームで、こんなに猫まみれ生活が楽しめるとは思ってなかったの」


 うちにもピクシーはうじゃうじゃいるけど。それはそれで、まあその、楽しくやってはいるけども、ケット・シーの破壊力はまた違う癒しパワーがある。


 へにょへにょ腰砕けになっていると、タビーさんが子猫もいるから見る?と誘ってくれた。子猫ですと! 見たいっ。でも、それを聞いたオセロさんが「いえいえまずはお茶なのです」とヒゲをピンとさせて撫でつける。


「お嬢さま方、こちらに座って。ではタビーさんは紅茶で良いですね。チョコさんはマタタビ茶でよろしいですかな?」


 マタタビ茶とはどんな味?


「えーっと。わたしも紅茶で」

「さようですか」


 ちょっとがっかりしているオセロさん。なんかスマン。


 それからすぐにお茶とケーキの準備をしてきてくれたオセロさんは、腰にカフェエプロンを巻いて出てくると、気品ある仕草で皿やポットを並べていく。テーブルの周りに集まったケット・シーたちが「ぼくも」「わたしも」とケーキをねだったが、オセロさんは「お前たちはこっちを頂くのです」とエプロンのポケットからクッキーを取り出した。


 視線を感じたのか、オセロさんは「ニボシクッキーです。チョコさんもいかが?」と勧めてくる。


「あ、ハイ。食べてみます」


 ニボシクッキーとはどんな味?

 ……うん、ニボシの魚っぽさに砂糖の甘さが混ざったなんとも言えないお味です。


 🍃


 ニンジンケーキは好評だった。


 オセロさんはやっぱり「わたくしニンジンは……」と拒んでいたけど、二足歩行している黒猫ケット・シーの口には合ったらしく、「うまいニャ、すっごく好きな味だニャ」と黄色の目をピカピカさせてくれた。もちろんタビーさんも「また食べたい!」と喜んでくれた。


 帰ったらピクシーたちに報告しないとね。それから、作ってくれたお礼もうんとしなくちゃ。うちのピクシー特製ニンジンケーキは美味なのです。


 ケーキを食べ終わると、いよいよ子猫ちゃんとご対面だ。

 子猫たちは別室にいるらしい。部屋を出て廊下を行くが、そここに猫、ネコ、ねこ!!


「たくさんいるけど全部で何匹いるの?」


 気になってたずねると、タビーさんは「うーん」と眉根を寄せる。それからウインドウで確認しだした。


「今は全部で54匹だって。あのね、結構入れ替わりが激しくてね。オセロは大人になっても家に残ってるけど、ある程度育つと『旅に出る』とか言って勝手に出てっちゃうの」


 エエッ、勝手に出ていくの!?


 聞けば、まだ声をかけてから出ていく子は律儀なほうらしく、気づいたらいなくなっている子も結構多いんだとか。さ、さみしー。でもまあペットの猫とは違うものね。人語話すし。あと本物の猫じゃなくて妖精だし。彼らにも人生(猫生)プランがあるんだろうなあ。


 

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