第39話 あたち、子猫ケット・シーのブランちゃん

 子猫ケット・シーがいる部屋は、すっごくカワイイ内装だ。


 空をイメージした水色の壁紙に白い雲模様が浮かんでいて、毛足の長い絨毯は芝生っぽい緑色。


 キャットタワーはお姫様が住んでそうな西洋風のお城のかたち。ペットハウスもたくさんあって、お魚の口に入るタイプ、テント型、マカロンに挟まるタイプなど、もうとにかくカワイイの。


 そして何より。


「!!!」


 ——っ今回も耐えた。思わず絶叫しそうになった。子猫ケット・シーがたくさんいる。全員モコモコでコロコロだ。なんだあのじゃれ合いようは。てちてち歩いたかと思ったらコテンと尻餅をついて。かと思えば大口のあくびでバランスを崩してコロン。立ったままウトウトしている子にぴょんっと飛び掛かるいたずらっ子に、仲間を下敷きにして大股開いて爆睡している子まで。


 全部、カワイイ。カワイイでわたしを殺しに来てる。恐ろしい子たちね!!!


「チョコちゃん? 大丈夫」


 感情が高ぶるあまり呼吸が止まっていたわたしを心配するタビーさん。すみません、取り乱しました。ケット・シー、怖い。子猫怖い……あっ、まさか、えっ!!


「おねーたん、あたちブランちゃんっていうのニャ」


 周りより少し大きい白猫が、二足歩行で近づいてきた。水色のうるっとした瞳で見上げてくる。しかも。は、話してる。こんな小さい頃から歩くし話すのケット・シーはやっぱりわたしを殺しに来てるなんて恐ろしのでしょう、ああああ、カワイイカワイイカワイイ……。


「タビたん、このおねーたん、ヘン。ぷるぷるしてるニャ」

「あなたがカワイイからよ、ブランちゃん。——チョコちゃん、ね、呼吸しようか。ほら吸ってー、吐いてー」


 スーッ、ハーー、スーッ、ハアアア。


「すみません、あまりの愛くるしさに三途の川を渡ろうとしてました」

「このヒト、ヘンだニャ。きっも」


「こらっ、ブラン。ごめんなさい、言葉を話すようになったんだけど、悪口まで覚えちゃったみたい。この子はそろそろ子猫部屋を卒業していい頃ね」


「イヤだニャああ、ブランちゃんはまだここで赤ちゃんするのニャああ」


 胸の前で手を組み、いやんいやんする白猫ケット・シーのブランちゃん。まーじカワイイ。あかん、また呼吸が乱れてきた。 スーッ、ハー、スーッ、ハー。


 だけどケット・シー愛好家のタビーさんはこの愛嬌たっぷりの仕草も慣れているのか、さらっとかわして。


「ここで女王様してないで大人たちに混ざって遊びなさい。オセロー、来てくれない?」


 すると執事ケット・シーのオセロさんが、「はいはい、何でしょう」とすぐさま駆けつける。


「ブランを他の子たちに紹介してあげて。子猫部屋は卒業よ」

「イヤニャアアアアアアア」

「承知です、タビーさん。ほら、ブラン、行きますよ。わたくしが立派なケット・シーになる心得をみっちり教えてあげましょう」


 首根っこ掴まれて連れ去られるブランちゃん。


「いいですか、ブラン。ケット・シーたるもの気品を保ち決して取り乱すような真似はしてはいけないのです。わたくしもあなたくらいの頃は……うんぬんかんぬん」


 と言葉を残して出ていくオセロさんは、ほんと頼りになる執事だよね。


「ねえチョコちゃん。ケット・シーのタマゴもあるんだけど見てみる? タマゴも素敵な柄でかわいいの」


 タマゴ! ケット・シーもタマゴから生まれるんだ。どうやら幻獣は哺乳類だろうが何だろうが、全部タマゴから誕生する仕組みらしい。で、そのタマゴたちは、子猫部屋の隣にあって。


「フオオオオオオオ!!!」

「ね、かわいいでしょ?」


 窓に面した棚の上に孵卵器が6台並んでいて。その全部にタマゴが入っているんだけど。


「肉球柄だ!!」


 白地にピンクの肉球マークがいっぱい。ケット・シーのタマゴって、こんなにカワイイんだ。タビーさんの話では、模様や色と柄でタマゴの中にいる幻獣が何か、ある程度わかるらしい。


「チョコちゃん、もしよかったら、タマゴ、ひとつ持っていく?」


 エエエエエエッ、社交辞令じゃないですよね、ほんとにくれるの!?

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