第25話「ほげーーーーー!!」

 蹄の両足を突き出し、茶色のつばさも生えた幻獣のタマゴ。

 でもそこから動きがなくなってしまった。

 ど、どうしたんだろう。


 てくてくてく。

 ——と動いたのは、ピクシーのぴーだ。


 タマゴに近づくと、


「ぴっ」

「あっ、こら。なんで蹴るの!」


 まーたこの子は。タマゴをひと蹴りすると、「やんのか、こらあ」って感じで腰に手を当ててタマゴをねめつけている。それでもタマゴが微動だにしないでいると、また「ぴっ」と蹴りを入れる。


「ダメだって。このペガサスちゃんはうちで飼うんですっ。イジメないでください」


 まったくもう。ぴーを摘まみ上げて厳重に叱っていると。

 ストン。

 タマゴが腰を下ろしてしまった。ぺたんと両足を投げ出して座っている。


 もしかして、いじけちゃった?

 がんばって生まれてきてよぅ、あと少しじゃん。


 でもそれから何分待っても、タマゴは座ったまま動かない。


 その寂し気で投げやりなタマゴの姿に、蹴りを入れたぴーも罪悪感が芽生えたのか、てくてく近づいていくと、今度は「ぴっ」と鳴きながら深々と頭を下げる。


 しーん。

 タマゴ、反応なし。


「ぴっ」と謝罪するぴー。

 周りのピクシーたちも、申し訳なさそうに肩を丸めている。


「あーあ。ピクシーたちのせいで、タマゴがいじけちゃった。生まれてくる気なくしたってさ」


 ここぞとばかりに嫌味を言ってやると、ピクシーたちは「ずーん……」と影を背負った。特にぴーは絶望ってかんじで両手を床につき、うなだれている。


「ご、ごめん。言い過ぎたよ。あんたたいのせいじゃないよ。タマゴさんも足とつばさを出したら疲れたんだよ。ちょっと休憩してるんじゃない?」


 といいつつ、手伝ってやろうと、タマゴの頭頂部?あたりをさすってみる。

 すると、


「ほげえ……」


 ん、何、この不気味な音。地の底からのため息みたい。

 やだなあ、このタイミングでホラーイベント?


「ほげえ……」


 キョロキョロしていると、つんつん、とピクシーのくーにつつかれる。何だと見れば、くーはタマゴを指差していた。


「ほげえ……、ほげえ……、ほげ、ほげえ……」


 まさか。タ、タマゴから聞こえてきてるの?

 どうしたんだろ。息苦しいのかな。ほげえほげえと繰り返している。


「ちょっと失礼しまーす」


 タマゴの中央あたりにヒビが入っていたので、軽くつついてみる。するとポロっと崩れるように欠片が落ちた。で。


「!!」


 ……動揺のし過ぎで驚きの悲鳴すら出なかったよ。二度見してしまった。じっくり見てもやっぱりそうだ。


「コレ、ペガサスじゃない」


 ヤバい。本人の前で落胆した声を出してしまった。伝わったかな……ああ伝わったな、若干斜めにタマゴがうつむいちゃった。うなだれてるよ。ごめん、だってクチバシが出てくるからあ、ペガサスだと思ってたら、クチバシが突き出すからあ。


「ペガサスってクチバシないよね」


 ううん、もしかしたら記憶違いでペガサスにもクチバシがあったかもしれない。

 ね、もしかしてクチバシあるかもだよねっ。ピクシーたちに同意を求めてみたが、全員、はて、と首をかしげている。うううっ、やっぱないかなあ、この子、ペガサスじゃなくて——ハッ!


「不死鳥とか!? いや、蹄があるもんな。麒麟? つばさあるっけ? 幻獣でしょ、鳥系の幻獣って何がいたっけ」


 考えているとバリバリとさらにタマゴが割れていく。

 すると小さなくりくりした黄色い瞳が現れた。カッとくちばしが開き、


「ほげーーーーー!!」


 ピロンッ♬


【ヒッポグリフが生まれました】


 へーっ、ヒッポグリフっていうんだ。

 ——って、何それ? 


 

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