第50話 レア幻獣、誕生!!

 大騒ぎのぴーとくーが抱えているもの。それは幻獣のタマゴ。

 しかも眩い光を放っている!!


「あらあらあら! あのタマゴちゃん、生まれるのっ、ねっ、生まれるのっ」


 テーブルの上にいるサラマンダーさんは、興奮したのかボディの炎をボウボウにさせて反復横跳びみたいしてぴょんぴょん跳ねる。


 うつむいてメソメソしていたはずのウンディーネさんも素早く立ち上がって、「光ってる、光ってる」とボヨンボヨンボディを揺らしながらオロオロ。パニックのためか体内に気泡が発生してサイダーみたいになっている。


「お、おおおお、落ちついてくださいっ」


 お前が落ちつけって感じで、それでもわたしは周りをなだめる。


「あれはケット・シーのタマゴなんです。なかなか孵らなかったんですけど、もしかしたら、今夜生まれるかもしれません!」


「ケット・シー!!」

 サラマンダーさんが天井近くまでぴょーんっと跳ねる。

「あたし、食われるかしら。猫と相性悪いのよ。しっかり燃えとかないと餌にされかねないわっ」


 ボオオオオオって、そんなに燃えなくてもっ。天井が黒焦げになりますっ。


「わたし、帰ろうかな。猫ってわたしのこと嫌うの。どうせわたしは水よ……、誰にも好かれたりしないの」


 しくしく……って、もー、泣かないでくださいっ。一緒に誕生を見届けましょうよ。


 ピキッ、ピキッ。タマゴにヒビが入る。

 放っている光がますます強くなってとても直視できないほどだ。

 ケット・シーってすごい生まれ方するのね。ヒッポちゃんはタマゴの時から、勝手にゴロゴロ転がって動いてたけど、こっちはこっちで何かスゴイ。


 ピクシーたちから受け取り、テーブルの上にタマゴを慎重に置く。ぴーとくーは、しーが入っているポケットに避難するように飛び込む。で、三匹で半分だけ顔を覗かせて様子を見やっている。


「ケッケッ、ケットシーちゃん。あたしは食べ物じゃないわよっ♪ ケッケッ、ケットシーちゃん、燃えるトカゲは、あっちっち♬」


 サラマンダーさんがお尻フリフリ歌い出す。

 ピキッ。タマゴのヒビがますます広がる。縦に真っすぐ、真っ二つに割れそうだ。


「ケッケッ、ケットーちゃん♬ あたしは情熱の——あらっ、この子も歌うのねっ」


 やっぱりこの音楽ってタマゴからですか!?

 何か聞こえ出したなとは思ってたんです!!


 しかも聞こえる曲はめちゃくちゃ神々しい。

 例えるならお殿様おなーりーの時のテーマ曲みたい。

 ぱーらーらーらーらーって壮大なラッパ音みたいなのとオルガンに似た音が重なってとどろくように曲を奏でる。


 す、すごすぎる。これはよほど偉大なケット・シーが誕生するんじゃないかな。タビーさんちのオセロさんみたいに、我が家の執事ケット・シーになってもらおうと期待してたんだけど、これだとむしろ王様が誕生しそう。ははーってわたしが仕えねばならないかも。


 思わず両手を合わせてしまう。サラマンダーさんも歌うのをやめて、ゴクリッとしているし、ウンディーネさんなんて壁に張り付いて体内では気泡が沸騰しそうなほど沸きまくっている。


 ぱーらーらーらーらー♬

 そいて、ついに!!


 ペカーーーーっとひと際強く輝くと、タマゴは斧で叩いたみたいに真っ二つにパンッと割れた。


「……え?」

「あら?」

「!!」

「ぴっ」「くっ」「しっ」「ほげー」


 キッチンが静まり返る。

 まさかまさかのものが誕生してしまった。


「わたしのこと見てるわ」とウンディーネさん。たしかにウンディーネさんの透明ボディを凝視している。というか運悪く?真正面に立っていたものだから、ガッツリ見つめてそこから動かないんだけどね。


「ねえダーリン。この子、わたしが知ってるケット・シーちゃんと違う気がするんだけど?」


「ですよね」


 サラマンダーさんの疑問はごもっともです。わたしだって思ったんの違いすぎてびびっている。ピクシーたちはポケットの奥の奥に隠れて震えているし、あの眼光鋭いヒッポちゃんですら、息を殺してわたしの後ろに退避してしまった。


「ご、ごきげんよう」


 そっと声をかけてみる。でも視線はウンディーネさんに定まったまま瞬き一つしない。トトトッとサラマンダーさんが近づいて来て、耳元まで這い上る。


「ね、ダーリン。あの子、メイクきつすぎじゃない? 生まれたばっかなのにさ」


 気になるのそこですか。そりゃまあわたしもアイラインばっちりだな、とは思ってましたけど。


 生まれてきたケット・シー(?)は、言うならアレだ、アレ……人面猫。

 かんっっっっぜんに人の顔をしている。しかも何だっけ、古代エジプトっぽい、あのくっきりはっきりの黒いアイラインが引いてある、あの顔で。胴体はがっしりした砂色の猫だ。


「きっと偉大なケット・シーの王が誕生したんですよ」


 コソコソとサラマンダーさんに耳打ち。なーぁる、とサラマンダーさんも納得しかけていたんだけど。


 ピロンッ♬


【幻獣スフィンクスが誕生しました】


 ぐっ、やっぱりね、うすうすスフィンクスっぽいなと思ってました!!

 胴体、あれは猫じゃなくてライオンか。


 ピロンッ♬


【レア幻獣です】


 でしょうね、誕生の仕方すごかったもん。曲流れだしたもんっ。

 でも執事ケット・シーが欲しかったんですっっ!!!

 レアじゃなくていいからフツーのケット・シーが良かったんですぅぅぅ(泣)

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