第49話 ココア片手に女子トーク(参加者/燃えるトカゲ・動くゼリー・アマチュア園芸家)

 叱責する情熱のサラマンダーさんと、メソメソしている傷心のウンディーネさん。まだまだ二人の女子トークは続きそうなので。


「とりあえず皆さん、中に入りません? お茶出しますよ」


 っというわけで、露天風呂から移動。あ、その前にサラマンダーさんの「情熱のドライファイヤー」というやつで、全身びしょ濡れだった身体もからりと乾いた。


 でもその「情熱のドライファイヤー」って一瞬だけど火だるまにされるもんだからびっくりしたよ。熱さはそこまででもなく温風な感じではあるんだけど見た目はヤバいからさ。


 脱衣所の戸口でこちらの様子を見ていたピクシーたちもびっくり、いつもクールなヒッポちゃんですら「ほ、ほげっ!」と目をぱっちりさせて驚いていた。まあ一番驚いたのはポケットの中にいたしーかもね。わたしと一緒に火だるまになっちゃったしさ。


 てなわけで温泉から母屋に移動。

 それにしても灯りの下で見ると、ウンディーネさんって不思議。


 透明な水が人型になって動いてるんだけど、ゼリー人間っていうの? ボヨンボヨン左右に揺れながら歩くから不気味というか笑えるというか。この人、誰かに惚れると美女になるんだよね? でもコレが本当の姿だってんだもん、おもしろ。


 だけど、この人が移動すると床が水浸しにならないかなって気になって。ちらっと足元を確認したけど、その辺は大丈夫みたいだ。廊下に足跡とか水たまりは出来ていない。潤っているけどべしゃべさとは違うんだろう。


 さて。


「情熱よ情熱っ、泣く暇あったら情熱を燃やすのっ」


 ピクシーが出してくれたココアを手に、キッチンで席を囲む。


 マグカップのフチに手をかけココアをすするなり、くわっと叫んだのはサラマンダーさんだ。メソメソしているウンディーネさんは「うん」弱々しく返事するもカップを持つ手がプルプル震えている。元気がない——ってやつかな? ちょっとよくわからないけど椅子に座る背筋が丸くなっている。落ち込んでいるんだろう。


「でもわたし何度恋してもダメなの。失敗するの。それで別れた男たちは全員、幸せな結婚をするの。——だから、毎回ぶっ〇してやろうと」


「ウンディちゃんっ、捨てた男のことなんて忘れなさいよっ」


 何か物騒なセリフが聞こえた気がするが、サラマンダーさんの声でかき消される。ウンディーネさんは「捨てた男じゃないわ。わたしが水辺で罵倒されて捨てられる バカな女なのよ」とメソメソ。


「情熱よっ、情熱うううう!!」


 ボッとボディの炎を昂らせるサラマンダーさんだ。あのちょっと我が家を燃やさないでくださいよ?


「あのー」と思い切って会話に混ざりに行く。

「情熱といっても恋愛だけじゃないですよね。趣味とか仕事とか。いろいろあるわけで」


「そうよっ、良いこと言うわダーリンっ」


 ボッと燃えるサラマンダーさん。ありがとうございます、ただ炎は心臓に悪いので控えて控えて。


「あたしだって歌と踊りに情熱を燃やしてるわっ」


 サラサラ・マンダー、サラマンダー♬

 お尻を振り振り踊り出したので手拍子してあげながら続く。


「わたしは農場を充実させようと情熱を傾けてます」

 毎日ログインしてますしね、という言葉は言わずにおくが。

「ウンディーネさんも何か趣味とかないんですか?」


「趣味……男漁り?」

「……」

 サラマンダーさんの踊りも止まる。思わず二人で視線を交わしてしまった。

「ほ、他の趣味は?」

「そうそう、ウンディちゃんの得意なことでもいいわ」


「得意なこと………………変身?」

「いいですねっ」とりあえず勢いよく相づちしたのだが、

「でも変身も好きな男が出来ないとできない。わたし……趣味も特技もない」

「こらっ、情熱っ」

 顔を上げろって意味だろう、すぐさま叱責するサラマンダーさん。

 でもウンディーネさんは「だってだって」とメソメソメソ……。

 テーブルの上に大粒の涙がぼたぼた落ちだしてしまった。


 や、やばい。失恋した相手に不謹慎かもしれなんが、このままだと家が水浸しになりそう、とそっちが気になりハラハラしていると。


「ほげっ! ほほ、ほほほほ、ほげっ」

「ぴーーーー!!!」「くーーーーー!!!」「しいいいいいいいいい!!!!!」


 何やら騒がしい悲鳴が。

 ちょっとちょっとあんたたち、どうしたの? 

 お客さん来てるんだからお利口にしてて——エッ、なにそれ!!!

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