第69話 テレフォンで相談、そして正解は……!!

 よしっ。挑戦すると決めたからにはサクッと済ませましょう。

 うかうかしてたら、上位陣がゴールしかねませんからね。


「では正解は〇、ウンディーネさんが最初に変身したのは、おさげ髪の少女!!」

 おりゃあああ、と走り出そうとして。

「ほげほげー!」


 くちばしで上着を噛み、両翼で囲って止めようとしてくるヒッポちゃん。

 んもー、なんですか。こういうのは勢いが大事なの。ためらったらダメなのよ。


「ほげほげほげげげー!」

「冷静になれって? わたしはいつも冷静ですよ。これは大チャンスだよ、〇×に正解するだけで1000万コイン!!」

「ほげっほげげ」

「失敗したら、全部パアだあ?」


 そりゃあこれがリアルでしたら、さすがに全財産失う賭けに出るほど無謀ではないですよ。でもね、ヒッポちゃん。ゲームで稼いだ金はゲームで使う!! 何も問題なしっ。わたし、一度も課金したことないしねっっ。


「ほげっ、ほげげ」


「ピクシーたちが一生懸命働いて稼いだ金を全部賭け事に使う気か? そ、そんな言い方しなくても……、あの子たちには給料払ってます。だからわたしの全財産はわたしが使い切る権利があるっ」


「ほげげー!」


 まーたく誰に似たんだか。そんな必死に説得してこなくても。だいたい、なぜそうも失敗すると決めつけるんだか。まあでもそうですね。勢いも大事ですが、出題者が運よく知り合いです。ちょっとヒントもらいましょうか。


「あのー、ちょっとお聞きしたいんですけどー?」

「なんぞよ」とスフィンクスさん。

「このゲーム、テレフォンシステムあります?」


「?」となっておりますが、隣のウンディーネさんは「あら、面白いわね」と察しが良い。


「そのルール採用しましょう。3分間、選んだ相手と答えを相談できます。いいわよね、坊や」

「うん、ママが良いなら、それでオッケーだよ」


 ひひっ、ちょろいです。

 これはもう相談どころか答えを聞ける可能性大なのです。


「ではチョコちゃん、誰に電話で相談しますか?」

 ウンディーネさんの問いに元気よく答えます。

「ハイッ、サラマンダーさんでお願いします!」


 あの燃えるトカゲさんなら、ウンディーネさんとの付き合いも長いみたいですし、最初に変身した人物についても、ばっちり知っているはず。これはもう1000万コインもらったも同然だいっ。


 ——というわけで。


 ぷるるるる……

 ぷるぷる……がちゃっ


『はいはーいっ。あらー! ダーリンじゃないのぅ。レースは順調? 情熱パワーでぶっちぎりよね?』


 ウインドウの画面に表示されたのは情熱のサラマンダーさん。その両隣には羽をパタパタさせているシルフさんとシルフィーネさん。後ろには「チョコちゃーん」と手を振るタビーさんと執事ケットシーのオセロさんもいます。


「あっ、ピクシーたちもいるね。おーい、ヒッポちゃんも頑張ってるよー」


 皆さん応援ありがとう。帰ったら話して聞かせる苦労話、涙涙の鞭打ちと悪の成敗物語があるのですが、今はそんなこと話している場合じゃないです。なにせ制限時間3分しかないのでね。ってことで、かくかくしかじかでルールを説明し、問題を伝えると。


「そんなの楽勝問題じゃないのー。情熱を燃やすまでもないわ」


 やったー。予想通りサラマンダーさんは、いろいろご存じのようです。

 お尻フリフリ踊りながら、上機嫌に教えてくれます。


「正解は×。あれはそう、ウンディーネがまだ一度も変身したことがなく、湖から一歩も出たことがない、そんな遥か彼方の昔のことよ」


 踊りを中断し、遠い目して語りだしてますが、ちょい巻きでお願いします。


「オッケ、ダーリン。でね初恋相手は森で迷ってしまったイケメン騎士だったんだけど、あっ、その頃、ウンディちゃんは森の中にある湖にいたんだとさ。で、湖面をのぞき込んできた騎士に案の定一目惚れ。ほにょにょーんって、相手の理想女性に変身……するはずだったんだけどね」


 ぷくくっと笑うサラマンダーさん。ん、何か笑う点あります?


「それがさー。そのイケメン騎士ったら、恋愛対象が男だったみたいでー。しかも自分とは対極のタイプに惚れるらしく。ウンディーネったら、ゴリゴリの髭面マッチョマンに変身しちゃったのっ。ね、おっかしっ。美女に変身する気満々だったのに、初めての変身でおっさんになっちゃうなんて、びっくりよねー」


 ま、この逸話も今じゃ笑い話——と爆笑していたところで、ブツッと通信が途絶えてしまいました。画面まっくら。あれ? まだ3分経ってないですよね?


「チョコちゃん」

 お。

「早く正解だと思うほうの壁にぶち当たって砕けてください」

 ウンディーネさん、笑顔なんだけど。何か……怖い。

「ママ?」

 ほら、スフィンクスのぼくちゃんも訝ってますよ? 急にどうし——。


「早く正解へ飛び込んだら、チョコちゃん?」

「は、はい。今行きます」


 えーとえーと……クイズは、ウンディーネさんが最初に変身したのは、どんな人物でしょう、でしたよね。で、続く質問は清楚なおさげ髪の少女、〇か×か。答えはゴリゴリ髭面マッチョマンです。だから×。あやうく間違うところでした、テレフォン使って正解っ、サラマンダーさんありがとう!


「よーしっ、それでは行きますか。ヒッポちゃん、ついて来るのです。夢の1000万コイーンッ!!」


 わたしは駆け出します、×に向かってゴーゴー。


 後ろから、「ほ、ほげっ」と戸惑っているヒッポちゃんの声がしていますが、ドドドッと足音もしてるのでついて来ているようす。このまま×印のパネルをぶち破り、一緒にゴールまで一直線に駆け抜けましょうっ。


「正解はバーーーツッ!!」


 とりゃあっ。


 ………ばしゃーんっ、べちゃ。


「え」

「ほげ?」


 ぺっ、泥が口に……、って、こと、は?


「ブッブー!! 不正解。正解は〇。ウンディーネが最初に変身した人物は清楚なおさげ髪の少女でしたー。では次回、また会いましょう♪」


「さよーならー」


 そしてスフィンクスさんとウンディーネさんは、消えてしまいました。


 ……え?


「ほげ」

「だから言っただろ、って? でもだってサラマンダーさんが……」

「ほげげっほげ」

「黒歴史はカウントしてなかったんだろ。暴いてどうする、ですって?」

「ほげ」


 こく、とうなずくヒッポちゃんは鳥足の爪と馬の蹄部分しか泥がついてません。

 あのね、こういうゲームはね、ダイナミックに顔から飛び込むんです、わたしのようにね。


「体の前面がすべて泥まみれになってこそなんですよ、わかります?」

「ほげ(わからん)」


 ピロンッ♬


【幻獣フライングレースの先頭集団がゴール目前です、実況をオンにしますか?】

【……オンにしますか?】


 ピロンッ♬


【優勝者が決定しました】

【隻眼の黒騎士選手とファイヤーバード選手ペアが優勝です】

【現在5位までゴールしました】

【現在10位まで決定しました……】

【……100位まで決定し】


 もういいってばっ!!

 目指してるのは完走なんですっ、初めからそうなんですっっ!!! 


 

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