第70話 レースは続行、感動のゴールでクライマックス!!

 ショートカットイベントの〇×クイズには失敗しましたが。

 まだ終わりではありません。


 優勝は決まりました。3位も決まりました。

 でもわたしとヒッポちゃんのレースは終わらないのです。

 完走する。その想いだけで飛び続けるのです。


「ほっげほっげほっげ……」

「がんばるんだ、ヒッポちゃん。ゴールまであと少しだ」

「ほっげ……ほっげ……ほっげ……」

「しっかりしろォオオオオオ、羽を動かせ、止めると落ちるぞオオオ」


 ……とかなんとかやって。


 途中降り出した豪雨をビショビショになりながら抜け、強風の中をくるくる回りながら飛び、月夜の中も飛びました。


 ああ、そうそう。


 ポケットの中で、すっかり大人しくなって存在を忘れかけていたペガサスのテンマちゃんですが、そちらのほうは、運営に糞王子を突き出した報告に来てくれたキューピッドさんにお渡しして、先に家に帰ってもらっています。


 両翼がボキリと怪我してましたからね。温泉でゆっくり傷を癒してくだされ。


 ってことですから、文字通りヒッポちゃんと二人で続行したレース。

 それも終わりを迎えます。


 一生お目にかかれないんじゃないかと思っていたゴールテープも、あと少しで見えてくるはずです。

 ここまで長かった。3日かかりました。


 その間の食料はウインドウのショップで購入できます。

 ですが、諸事情あり、現在の所持金ゼロです。アハハ。


 ご存じ? このゲーム、贈与機能があるのです。

 だからタビーさんに連絡して借金しました。ありがとう、友よ。

 返済は良いよとおっしゃいますが、必ず返します。


 ヒッポちゃんのためにプリプリの芋虫を購入し、わたしは我慢してもよかったのですが——アバターですしね——それもさみしいので遠慮しつつ、おにぎり買ったり緑茶を買ったりしました、ありがとうタビーさん。おかげでなんとか3日間続いた激闘も無事に終えられそうです。持つべきものは理解ある友人。


 

 さて。そのゴールなのですが。


 いつの間にやら折り返していたらしく、スタートした会場がそのゴール地点でして。地上に降り、ゴールテープを切ることで終了です。


 でも、その会場。


 あれが夢じゃなかったのなら、大いに盛り上がったイベント会場で、屋台も出て、カラフルなフワフワ綿あめに、キュートで真っ赤なりんご飴、金魚すくいならぬミニミニ怪魚すくいなどあったはずです、看板見ました。

 

 そんで、あちこちでバルーンが飛んでいて、それはそれは楽しげでワクワクするイベント会場だったはずなのです。


 ゴールしたら、あのカラフル綿あめ買おう、なんて思い描いていた時代がわたしにもありました。


 しかし、しかしですよ。


 今、降り立った会場ですが、ただの空き地になっています。全部撤収してる。屋台一つもない。観客もいない、バルーンも一個も飛んでない。聞こえてくるのは幻聴なのか効果音か、カアカアとカラスの鳴き声だけ。わたしとヒッポちゃんの長く伸びる影が哀愁を誘います。


 誰も最下位のゴールなんて待っててくれないんですね。そりゃそうか。3日後だもんな。でも制限時間なしっていったじゃん、あの賑やかな会場どこ行ったのよ。


 しかしながら、すべて撤収したかに見えた空き地に、しかと存在するゴールテープを見つけました。その端を持っているのは、タビーさん、それから執事ケット・シーのオセロさんです。ゴール下には燃えるトカゲ、サラマンダーさんの姿も。


「がんばれー、あと少しよっ。情熱、情熱を燃やせえええ」

「チョコちゃーん、ゴールはここよー!!」

「あと少しです、ヒッポさんもがんばって」


 う、涙が出そう。目元とゴシゴシやっていると、ブーンっと飛んでくる虫、じゃなかったシルフさんとシルフィーネさんのお姿が。


「待ってたわけじゃないの、たまたま通りがかっただけなの」

「そうそう。でもゴールの場所は知ってるかもね。ほら、あのテープがそうなんじゃないかな」


 つんっとそっぽを向きながらおっしゃるお二人ですが、頭に巻いたハチマキには「!!応援!!」「ヒッポ♡チョコ」の文字が。泣ける。


「ヒッポちゃん、あと少しだ、がんばろうっ」

「ほげっ!」


 もう地上ですから、ヒッポちゃんから下りてわたしも歩きます。がんばったねヒッポちゃん。ヨロヨロだよね。お尻も怪我したのにさ、ほんと頑張り屋さんなヒッポグリフだよ、君は。


「チョコちゃん、がんばれー!」

「ヒッポ、ヒッポ、ヒッポ!!」


 声援に励まされながら、一歩一歩進みます。と、実況が始まりました。えらく間近で聞こえると思ったら、ゴールテープ横にマイクを握るナマケモノの姿が。


「チョコ選手、ヒッポ選手、間もなくゴールです。今回の幻獣フライングレース、最後のゴール通過者です。1日目の夕方には多くのペアがリタイアを宣言しました。しかしっ、なんと開催3日目にして完走するペアが現れるとは、誰が想像したでしょうか!!」


 ……あれ、あのナマケモノさん、号泣してる?


「わたくしはもう前が見えませんっ。歴史的で感動的な瞬間に全身が震えています。レースとは優勝するだけがすべてではない、それをお二人が体を張って証明してくれました。さあ、皆さん、勇敢なお二人のゴールをこの目で見届けようではありませんか。ありがとう、チョコ選手、ありがとうヒッポ選手!!」


 ……やめろ、大声で恥ずかしい。泣きそうだったのが引っ込んだわ。


「あと少しかもっ」

「うんうん、あっちがゴールかもっ!!」


 並走してくれているシルフさんとシルフィーネさん。ゴール地点ではサラマンダーさんが「情熱よおおおおお」と火だるまになっています。あのー、ゴールテープ燃えません? タビーさんとオセロさんが火傷しませんかね、思いっきりのけ反ってますが、熱いんじゃないですかね?


「ぴー!」「くー!」「しいいいいい!!」


 ピクシーたちも顔をくちゃくちゃにして応援してくれています。あれ? あそこに見えるのはキューピッドさん、あっ、スフィンクスさんとウンディーネさんまで。あらあらっ、ノームさんご夫妻も!! 


「さあ、あと一歩でゴールです。せーのー!!」


 実況のナマケモノさんの声に合わせて、足を踏み出して。


「ゴオオオオオオオルゥゥゥ!!!」


 🎉🎉パンパカパーン🎊🎊


「チョコちゃん、ヒッポちゃん。完走おめでとう!!」


 ……終わった、わたしたち、目標達成です。


 ヒッポちゃんの首に抱きつくと、二人してへなへなと地面に腰を下ろしたのでした。あー、長かったあ。


 

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