第59話 飛びたいヒッポグリフ~師匠は風の精霊ペア~

 ヒッポちゃんの闘志に火が点いたので。

 再び、飛行のスペシャリストさんたちが来てくれましたー、パフパフー♪


「べつに教えに来たわけじゃないしっ」

「温泉にはいりたかっただけだしっ、ぜんぜん教えるないもんねっ」



 パタパタ羽を振るわせてお上手に飛んでいるシルフさんとシルフィーネさんです。今日は温泉に入りに来たと言い張っていますが、服装は前回よりもより本格的なスポーツウエアに首タオル、白のキャップは爽やかで、斜めがけした大きな水筒にはスポーツドリンクが入っているそうです。


「お風呂上りに飲むだけだしっ」

「ふらっと立ち寄ってみただけだしっ、全然準備してきたわけじゃないしっ」

「わたしたちいっつもこの服着てるもんねー」

「ねー、お気に入りだよねー」

「鳥顔馬尻のためじゃないもんねー」

「そうそう。あいつのことなんて毎日気になって仕方なくなかったもんねー」


 ギロッ。


「ひっ」「ぎゃっ」


 あーっ、ヒッポちゃん。すみません、生まれつき眼光が鋭いんです、今のは威嚇ではなくて気合の表れでして。ね、ヒッポちゃん。


「ほげっ」

「エッ」


 悲鳴に抱き合っていた二人は、驚きの顔で固まっている。あ、今気づきましたけど、シルフさんの腰に挟まっている本のタイトルは『飛ぶ気がない子がその気になる最高の誉め言葉100選』ですね。


「ほげっ、ほげげーほげっ」

「いやいやべつにそんなに、ねー?」

「うんうん、気にしなくても、ねー?」


「ほげげっ、ほげほげ、ほげーげっげっ」


「なっ何言ってるかわかんないしっ」

「ぜ、ぜぜぜんぜんうれしくないしっ」


 顔を真っ赤にして照れているお二人。えーっと、ヒッポちゃん、何て言ったの?


「通訳してあげようか?」

「おねがしま——って、サラマンダーさんじゃないですか」

「何やら情熱的な空気を感じてね。はせ参じたわっ。あの子、良い目してる」


 あの子とはもちろんヒッポちゃんです。良い目ですかね。たしかに今日は一段と凛々しいです。しかし火の精霊、風の精霊、揃い踏みでヒッポちゃんを気にかけてくれるなんて、飼い主冥利に尽きます、泣ける。


 ……で。ヒッポちゃんは何を言って、シルフ&シルフィーネさんを赤面させたんですかね? ぐでんぐでんに大喜びして照れまくってますけど。


「いいわ、教えてあげる。うっとね、第一声はこうよ」

 とサラマンダーさんはオッホンコッホンと喉を慣らして。

「師匠っ、お願いしやッス!!」


 エッ。そりゃお二人もエッと固まるわな。


「それからこうよ。コホンっ。『前回はすみませんっした。腹切って詫びたい気分ですっ。それ出来ないんでおれの羽根むしり取ってもいいですっ、やってくださいっ!!』」


 羽根はダメだよ、ヒッポちゃん。今から飛ぶんだし。頭とかの羽根ならいっか?


「そして最後はこうよ。『お二人みたいな素晴らしい師匠を持てて、おれ、嬉しいッス。おれみてーな鳥顔駄馬と違って、お二人は飛べるだけじゃなくてダンスもできてこの世界のスーパーアイドルっすよね。しかも精霊様だ。偉大すぎて後光が射してます、直視したらおれの鳥目はつぶれてしまいそうですっ、でもがんばるんで飛び方教えてくださいっ、何でもやりますっ、お願いしやッス!!』」


 そ、そうか。ヒッポちゃん、やる気満々なんだね。あの「ほげ」にそんなたくさんの意味が……。


「あの子見てるとあたしも燃えてきたわっ。情熱よ情熱、ヒッポちゃん、あたしも応援するから、がんばって飛べるようになるのよっ」


「ほげええええ!!」


 高らかに鳴くヒッポちゃん。サラマンダーさんだけじゃなくヒッポちゃんにも全身にみなぎる情熱の炎が見えるようです。


「じゃあまずは基礎体力をつけましょう、です」

「そうそう。訓練場、10周しなさい、です」


 広げた本を見ながらそう指示をだすシルフさんとシルフィーネさん。今見てる本は『ペガサスより速く飛びたいあなたへ贈る最高のトレーニング法』ってタイトルですね。一体、何冊の本を用意してくれたんでしょうね。すんません、うちの子、今日はやる気なんでよろしくお願いします。


 ——それから始まったスパルタレッスン。


 まずは訓練場を10周したヒッポちゃんは、そのあとスクワットを50回、腕立て50回をやる。腕立てのほうは前足が鳥の細足を使うので、かなりきつそうでしたね。そのあとついに羽を動かす練習に移りまして。


「ブンブン、ほらブンブン」

「こうやるの、ブンブン。ほらブンブン」


 自分の羽を振るわせて手本を見せるシルフさんとシルフィーネさん。ヒッポちゃんも真似しようと力んではいるんだけど……。


「ほげ……」

「うーん、ピクリともしないね」

「おかしいね、ブンブン、こうよ、ブンブン」


「ほっげええええ…………ほげっ⤵」


 無理みたいです。肩を落としてしょぼんぼりのヒッポちゃん。サラマンダーさんが背中に這い上り励まします。


「がんばるのよ、ヒッピー。情熱で動かすのよ、あきらめたらそこで終わりよっ」

「ほげっ。ほっげええええーーー」

「そう、そのいきよっ」

「がんばるのっ」「いけるいけるっ」


 おっおっ!! ついにヒッポちゃんの大きな両翼が……!!


「ほげっ⤵」


 動かなーーーいっ!!

 こ、これは一筋縄ではいかなそうです。 

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