第67話 レースは続行。雲の上のピラミッド発見

 それではレース再開です!!


 ——と、その前に。


「ヒッポちゃん、お尻にお薬、塗っておきましょう」


 あまりに痛々しいのでこのままはいけません。温泉は無理でも薬ならショップで購入可能です。というわけで、ポチっと。


「フム。切り傷、あかぎれ、ニキビ、乾燥などに効果あり。万能軟膏オロキューだって。じゃ、ぬりぬりしましょうねー」


 まったくあのゴミクズ王子め。ヒッポちゃんのプリチー馬尻に鞭打つたあ、良い根性してます。呪い〇したろか。ヒッポちゃん、お薬が沁みたのか「ほげっ」とひと鳴きしましたが、あとはぐっとこらえて大人しく耐えております。健気や。


「よしっ。テカテカしてますが、たっぷり塗りましたからね、痛いの痛いの、飛んでけー!!」


 ということで治療終了。レースに戻るためヒッポちゃんにまたがり、安全ベルトを装着します。


「ではキューピッドさん、あとは任せました」

「おうよ。コイツを運営に突き出してきてやらあ」


 コイツとゴミのように首根っこつかんでいるのは、あのクズ王子です。

 まだ気絶中です。目を覚ましたら糞に恋する運命です。


「じゃあ、がんばれよっ。ちゃーお!!」

「ちゃーーおっ!!」

「ほーげっ」


 さてさて、しばらく二人旅が続きます。

 青い空、白い雲。ほっげほっげと鳴くヒッポちゃんの声。

 のどかです。平和です。

 レースに時間制限はありません。

 だから急がなくてもいいのです。ヒッポちゃんのペースで完走を目指しましょう!


 ところレースのほうはどうなってるかしらね。上位陣はまさかもうゴールしたでしょうか?


 オフっていた実況を復活させてみる。

 ジー……の音のあと聞こえてきたのは——。


『おおっと、レッドドラゴン選手の火の咆哮に、サンダーバート選手、行く手を阻まれる。サンダーバード選手、電撃攻撃を繰り出すが、威力半減!! 前方は開けないっ。 っとそこへ割り込んだのは、フロストドラゴン選手だっ。氷結の吐息にレッドドラゴン選手の燃える障壁も凍ってしまったああああ!!』


  ——プツンっ。オフに戻します。


 「フライングレースじゃなかったのかよ」


 直接の攻撃は禁止だけど、妨害行為はいいようですね。なんつぅルールだ。炎や雷、氷が降り注ぐようなレースになるなんて聞いてないよ。まるでバトル大会じゃないか。騎乗している人たち、大丈夫なんかね。


「ま、いいです。勝手にどこかのドラゴンさんだかバードさんだか優勝してくださいよ。こっちはマイペースに完走するだけ、ね、ヒッポちゃん!」


「ほっげぃ!」


 そしてさらにしばらく飛び続け……。


「おや。あそこに見えてきた休憩雲。これまでと色がちがうね?」


 今までのは白色かうっすら水色やピンク色に染まるミルキーカラーだったのに、今回見えてきたのは、黄金に輝いております。何やらありそう。さっき休憩したばかりですが、ちょっと立ち寄りますか。


 で、着陸してみると看板が立っておりまして。


「究極の選択クイズ。正解はどっち!? 見事正解したプレイヤーには、超お得なショートカットコースへの道が開ける……?」


 なんじゃこりゃ。矢印が書いてあって、指している方向には、ででーんっとピラミッドが立っており、入り口が黒々とぽっかりあいている。


「怪しいなあ。中に入った途端、閉じ込められるとか?」


 トラップの可能性ありありです。何故、雲の上にピラミッドが。怪しいしかない。でも入っちゃいましょう!!


「ほげっ!?」

「だーいじょうぶだあって。どうせ死にゃしないんだから」


 トラップだろうが何だろうが、イベントは楽しんだもん勝ち。

 ずっと空飛ぶだけで実はちょっとあきてきてたのでいい刺激です。


「でも心配なら、ヒッポちゃんはここで待ってて」

「ほげほげいっ」

「あらついて来るの。じゃあ一緒に行きましょう」


 すっかり懐いて。タマゴから大切に育てた甲斐があるというものです。主にピクシーのぴーが世話してましたけど。


 ピラミッドは狭い通路で、ヒッポちゃんのお尻がギリギリつまらないくらいの幅しかなく、天井も低め。わたしを先頭にヒッポちゃんは首をすぼめて付いて来ている。見えている先は真っ暗だけど、進むたび壁面にある松明がポッと灯るので、歩けてはいますけど。


「不気味。入口、ふさがってないよね?」


 どーんって音は聞こえてないから、駆け戻ったら入り口はちゃんとそのままだと思いたい。


「ほ、ほげ」

「あらあら、怖いですかね。だいじょーぶだいじょーぶ」


 ヒッポちゃんの襟巻みたいなフワフワした首回りを撫でる。こうしていると癒されます。しかし長い通路だなあ。湿気た臭いがするし、薄暗いしで、気が滅入りそう。


 と思ったところで、先に明かりが。やったーと駆けていくと広い場所に出る。

 祭壇みたいなのがある。で、その祭壇に座っているのは。


「待っていたぞよ、挑戦者たちよ」

「……スフィンクスさん?」

「……ママー。この人、知り合い?」


 と、スフィンクスさんが鎮座している祭壇の裏から出てきたのは。


「えー? あらっ、チョコさんじゃないですか。レースに参加してたんですね」


 わーお、ウンディーネさん。今日も麗しいクレオパトラ風美人さんですね。

 でもその正体は透明ゼリー人間だと知っている……なんて言わないでおきます。


「スフィンクスさん、ずいぶん大きくなりましたね」


 ケット・シーのタマゴだと思ってウキウキ持ち帰った日が嘘のようです。巨大スフィンクスですよ。人面の頭だけでヒッポちゃんくらいあります。ぱくっと一飲みされそう。あとあの丸々むちっとした獅子の手、軽く叩かれただけで、紙みたいにペラペラのぺしゃんこになりそう。


「すくすく育ったの。うふふ。坊やと出会えて本当に良かったわ」

「ぼくもママ、だーいすき」


 なごやかー…なはずだけど、あの人面、十分成人したファラオのおっさんに見えるから、この会話怖い。あれはまだ坊やなんですね、そうなんですね。


 それで。お二人とも、こちらで何してるんですか?


 

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