第23話 必死に無実を訴えるピクシーたち

 冤罪です。わたしは悪くありませんっ。

 ——という表現を必死の形相でするピクシーのぴー。

 吊るしあげている手の中で、ぴーぴーぴーぴー、訴えている。


 下ではピクシートリオの残り二人、くーとしーも「ちがうんです、ちがうんですっ」と言わんばかりの身振り手振りで死に物狂いである。


「……まあ事情を聞こうじゃないの」


 孵化を心待ちにしていた幻獣のタマゴが見当たらなくなり、キッチンのテーブルでは巨大オムレツを囲んで賑やかになっているピクシーを見つけ、叱りつけたあげくに「ピクシーが怯えている」という理由で経験値がダウンしたプレイヤーにしては、非常に心が広いと思う。


 で、その心広いわたしはピクシーの訴えを真摯に聞いてみた。

 それでわかったのは……。


「タマゴがひとりでに動いて孵卵器から脱出した?」


 こくこくこくこく、メタルバンドかよレベルでうなずくピクシーのぴー。

 下でも大勢のピクシーたちが「そうだそうだ」とある者は拳をふりあげ、ある者はメタルバンドし、ある者は足を踏み鳴らしながらシュプレヒコールだ。生意気な。


「嘘つくにしても、もうちょっと工夫したらどうだい」


 言い訳にも程がある。タマゴがひとりでに動くだと? タマゴはタマゴだ。動き出したらそれは孵化しているということ。だいたい脱出してどこに消えたってんだ。お前らの腹の中だろうがっっ。


「ぴーぴーぴー!」

「くーくーくー!!!」

「しぃぃぃぃぃ!!!!」


 うるせーっ、騒ぐんじゃねえっ。


 それでもピクシーたちはめげない。無実だ、本当にタマゴが動いたんだ、と身振り手振り変顔、奇声で訴える。


 ぴーは目を真剣に見開き、タマゴを抱える仕草をする。それから吊るされている状態で宙ぶらりんの足をパタパタと動かした。


 それを見たくーが、ひざを抱いて丸くなると、コロコロと転がる。しーが大げさに驚くリアクションをすると、つるし上げのぴーが「ぴぎゃーっ」と悲鳴を上げる格好をした。


「ほーぅ、なるほど。君たちの訴えでは、孵卵器の中でタマゴが振動し始め、びっくりして眺めていると、孵卵器を飛び出し、コロコロと転がっていった……ということかね?」


 ぴー、くー、しー! と三匹は「そうだそうだ」と訴えている。


 それからピクシートリオの配下にいるモブピクシーたちが、手をばたつかせる動きをし始める。で、怒って拳を振り上げる仕草をするぴーに、くーが「まあまあ」となだめる真似をし、しーが「シーッ」と秘密だよ、とほくそ笑むジェスチャー。


「つまり、あの巨大オムレツはニワトリのタマゴを大量に消費しただけ。でも、それを見たぴーは『さすがにこの量はダメだ』とモブピクシーたちを注意したのだが、くーが「まあ、たまには贅沢もいいじゃないか』ととりなし、しーが『バレなきゃいいんだし』と言った——おいこら、しー!! お前ってやつは、いつもヘコヘコゴマすりしているくせに、やっぱり裏では人間をバカにして……」


 ——と、ぴーを放り投げ、しーをとっ捕まえたところで。


 ごろりん

 ごろ、ごろりん


 背後で重い石でも転がるような音がした。

 振り返ってみると……。


「ぎゃー!!! 幻獣のタマゴがひとりでに動いてるっっっ」


「ぴー!(だから言ったでしょ)」

「くー!(嘘なんてついてません)」

「しー!!(おれたちゃ何も悪くねー、謝罪しろ、人間っっ)」

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