第33話 怪我したノームおじいちゃん、温泉に入りたがる

 裏庭はハーブ園にしてる。

 園といっても小さめだけどね。1m×3mくらい?

 でも種類はたっぷり。


 手前はラベンダーとローズマリーで縁取って。中間にはセージとカモミール、後方にはハマナス、ローリエ、オリーブの木!

 他にもいろんな香りがするミントやゼラニウムを鉢植えにしているし、ちょっと日陰なところには、レモンバームを植えてぇ——。


「お嬢ちゃああん、おらんかねー」


 ……そうそう、ハーブ園の隣は畑にしてるんだけど、そこはハーブ系っていうのかな、ニンニクとかネギを植えていて。


 この間、掲示板の注文で、吸血鬼さんがニンニク100個いるって言ってたのね。ちょっと心配しちゃったけど、まあ欲しいって言うからねえ、あげたけど、そういや最近、掲示板で見かけない——。


「お嬢ちゃあん、こんにちはー!」


 ……表から声が聞こえるな。あの声は。


「ノームのおじいちゃん。あのあと空に吹っ飛んでったけど大丈夫——じゃ、なさそうだね」


 表まで迎えに出てみると、てっぺんにキノコがついている杖に寄りかかる、ボロボロのノームのおじいちゃんの姿が。


「お嬢ちゃん、見てよ。大怪我じゃよ」

「そのようですね」


 空にきらーんっ、の結果、ずいぶん怪我したようだ。


 いつもはたっぷりしている髭もぺしゃんこで。真っ赤な帽子も汚れて黒くなっている。何より、ガクガクブルブルと震えていて、声も弱々しい。杖を支えに立つのもしんどそうだ。


「それでな、お嬢ちゃん」

「はい」

「お嬢ちゃんち、温泉沸いたんじゃろ?」


 その結果、ノームのおじいちゃんが吹っ飛んだんだもんね。源泉が湧き出たの、ちょうどおじいちゃんがいた真下だったから。


「それでな。ちと、入らせてもらおうかと思って。もう足腰痛くてね。ボロボロ。癒させて?」


 いや。温泉より病院に行ったほうが……。


 ピロンッ♬


【地の精霊ノームが、温泉を利用したがっています。追い出しますか?】


 エッ、いやいや。どうぞご利用ください。

 あ、でも。


「土地、くれます?」

「……お嬢ちゃん、怪我した老人になんてことを」

「この間、牛乳差し上げるって言ったのに、しれっと土地値上げしましたよね?」

「——賄賂はもらわん主義で」

「その怪我なら病院に行ったほうが……」

「お嬢ちゃん、土地欲しい?」

「欲しいです」

「1ブロック10万コイ——」

「病院行ったほうが……」


 どさっ。くずおれるノームのおじいちゃん。え、泣いてないよね?


 ピロンッ♬


【地の精霊ノームが葛藤しています】


 ……なんか、すみません。


「そんなに温泉入りたいですか?」


 そっと声をかけると、ノームのおじいちゃんは「ふぉっふぉっ」と弱々しく笑って。


「——ええいっ、もってけ、10ブローーークッ!!!」


 腰が砕けた格好のまま、杖で地面をドンと突く。


 ピロンッ♬


【広げる土地の位置を選択してください】


 やったああああ!!!

 しかもヤケ起こしたのかな、10ブロックもくれるんだって!!!


「い、いいんですか」

「もってけ、お嬢ちゃん。その代わり……」


 🍃


 ホワホワのゆげ。ちょっとぬるめのお湯は長湯にぴったり。


「どうぞー。麦茶と枝豆でーす」


 桶に麦茶の入ったグラスと枝豆を入れて、そっと水面に浮かべる。

 パシャパシャとバタ足して運んでくれるのは、ピクシーたちだ。


「おぉ、良い湯じゃのう」


 ご満悦のノームのおじいちゃん。


 真っ赤な三角帽子を取ったら毛が一本もなかったけど、眉毛がフサフサしてたから相変わらず目がどこにあるかわからない。それでも頬はほんのり染まり、肌はつやつやしている。


 麦茶を飲み、枝豆をぱくぱく。「良い塩加減じゃあ」だって。ピクシーのぴーが茹でたんだけどね。あとで喜んでたって伝えてあげよっ。


 ノームのおじいちゃん。10ブロックの土地をくれる代わりに、温泉入り放題のパスをくれ、だってさ。まあいつでも好きな時に来たらいいよ。混浴はしないけどさ。ピクシーたちが接待してくれるんじゃない?


「ふぉっふぉっ。怪我も治る、最高の温泉じゃわい♬」


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