第63話 幻獣フライングレース開始🎉
「——えーっ、それでは選手の皆さんも集まったことですし、幻獣フライングレース、スターッ」
「待って待って待って待って、また2秒余ってますから!!」
「ほげーーーーー!!」
【……2、1、0。ビーーーーーー!! レース開始時刻です】
ふーっ、ギリギリセーフです。始まらずして敗戦するところでした。
「——ト、の準備は良いでしょうか? 最後の選手も到着したことですし、改めて、開催を宣言します。では皆さん、正々堂々と戦ってください」
実況さんは、仕切り直すようにコホンっ。いやいやすみませんね、でもほら、遅れたわけじゃないし、時間には間に合ってますから。
というわけで、図々しくもスタートラインの後方ではなく最前列まで行かせていただきます、ハイハイ、失礼しますよ、ちょっと大きいのが通りますけどね。
ヒッポちゃんが「ほげーほげー」と鳴きながらくちばしでぐいぐい前へ前へと行くと、あらゆる方角から、にらまれたり舌打ちされたりしましたが、めげません。すべては1000万コインのためです。ルール違反じゃないんだから、怒らないの、ね? まったく心が狭いんだから。
「ではいいでしょうか? 位置取りで揉めないでくださいね、勝負はレースで決めてください。よいですか? 暴力禁止、罵声禁止、ズル禁止に八百長禁止ですよ。見つかり次第、失格、さらにはゲーム内のデータも抹消しますので絶対に不正はしないように」
データ抹消!! それは恐ろしい。でもわたしズルいしないので平気です。正々堂々がんばるのです。
「ちっ、何あのヒッポグリフ、デブすぎじゃね?」
「図々しい女だな。遅れてきたくせに前でんじゃねーよ」
「うわー、恥とか知らない系? やばー」
……何も聞こえません。一人なら隅にいって号泣してますがヒッポちゃんにまたがっていれば何も怖くありません。だいたい罵声は失格ですよっ。フンッ。
「それではスタートです」
実況さんの声のあと、空中に大きく数字が表示されました。5、4、3、……カウントダウンって何でこうも緊張するんだろ。い、胃が……。ヒッポちゃんの首にしがみつく。何て頼もしいんでしょうね。ヒッポちゃんは前をギロッとにらんでやる気満々、怯えも緊張もありません。
「にーっ、いちーっ、ぜろっ!!」
ぱんっ
「選手いっせいにスタートです!!」
行くのです、ヒッポちゃ——ガハッ。
な、なんです、後頭部に衝撃が!! あれまっ、横から何かぶつかってきます。ちょっとちょっと、なんだってそんな体当たりしてくるのっ。まるで弾かれるピンポン玉の気分です。
「暴力です、暴力を受けました、あいつら全員、失格だっ!!」
「ほげほげっ」
ですが抗議も「わーわー」声にかき消されて。
「スタートから混戦しております。怪我のないよう気を付けてください。あせらないで。レースは長距離ですよ」
ちょっとちょっと、混戦で片づけるには被害が大きいんですけど。ちくしょーっ。最前列にいたのがあだになったようです。後方からどつかれてひどい有様。
「ヒッポちゃん、大丈夫?」
「ほっげ!」
「くう、強い子だねえ」
もみくちゃにされたのに、ヒッポちゃんの目はギロッと凛々しいままです。少々乱れた羽毛を整えてあげると、ほげっ、と気合たっぷりの返事。
「チョコちゃーんっ、がんばってー」
「チョコさん、ヒッポさん、わたくしも応援してますよー」
「ダーリン、情熱よっ、ヒッピーもがんばれーーー」
「応援しなくもないのっ」
「べつに応援してあげなくもないしっ」
「ぴーーー」「くーーーー」「しーーーー!!」
地上からの声援がしっかり届く。みんなありがとう、がんばるっ。っていうかピクシーたちも来てくれてたんだね。そうだよね、特にぴーの熱の入りようはサラマンダーさんもびっくりよ。
「これはこれは大声援ですね。しかしながら、チョコ選手とヒポグリフのヒッポ選手、スタートに失敗してダントツのビリです」
こ、こらーっ。そんなはっきり実況すなっ。
……って、上空に大画面で表示されているのでわかりましたが、実況しているのはコミュニティで会った運営のナマケモノさんではないですか。あのサイズがあってない小さすぎる帽子とか、そのまんまだしっ。どおりで図々しい実況すると思ったわっ。
「ほっげほっげ」
「そうそうヒッポちゃん、まだまだ始まったばかりだよ。レースは長いんだし、ゆっくり行こう!」
昨日まで飛べもしなかったヒッポちゃんが、こうしてレースに参加して、しっかり上空で羽ばたいているのです。もうそれだけで泣けるやつ。
しかしながら皆さん、早いですね。あっちゅうまに遠くに……。い、いや。マイペースに行こう。ウサギとカメの話だってあるんだ。長距離レース、さらには障害も用意されてるっていうじゃありませんか。じっくり行く方が吉です!
🍃
「チョコちゃんたち、大丈夫かしら」
「タビーさん、わたくしは思います。参加することに意義があるって」
「ダーリンならやってくれるわよっ。あたし、全力応援で燃え尽きてやるわっ」
ゴオオオオオオ🔥
「えーっ、応援席のサラマンダーさん。ボヤ騒ぎは起こさないようお気をつけてください」
「ちっ。何がボヤよ。あたしの情熱はすべてを燃やし尽くすのよっっ」
ゴオオオオオオオ🔥
「オセロ、バケツに水を……」
「こちらに用意してあります」
バシャッ。鎮火。
「ぴー(ヒッポ、大きくなって……ほろり)」
「くー(あんなの最下位、決定じゃん)」
「しー(それ言っちゃダメなやーつ)」
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