第28話 風の精霊シルフとシルフィーネ

 世話係に任命されて、少々憂鬱そうだったピクシーのぴーだけど、何だかんだでヒッポちゃん(ヒッポグリフ)の世話を良くしてくれている。


 せっせと畑からミミズを取ってきてはヒッポちゃんが満足するまで与えているし、鎮座しているクッションを押したり引っ張ったりして、日向に運び日光浴もさせている。タオルで毛並みを整えている姿も見た。前足の鳥足の爪を磨いている姿も。


 ここまでやってくれたら、ギロッと目のヒッポちゃんも、ぴーによく懐いて……はないんだよね。相変わらずギロッ。


 ぴーも今にも食われるんじゃないかって、びくびくしながら世話してんだよなあ。サイズ的にはピクシー一匹くらい、ペロリとひと飲み出来そうだし。あのクチバシで刺されたら、ピクシーは一瞬で串刺しだろう。


 そしてわたしにだって、当然のようにヒッポちゃんは懐いていない。今日もわたしが畑仕事しているのをリンゴの木蔭から眺めてくれているんだろうけど、その目つきはギロッ。っていうか、リンゴの木まで抱っこして運ぶ時も暴れはしないけど、まばたきもしないし、ギロッとした目つきのまま微動だにしなかったんだよね。


 あれじゃあ置物だよ。目つきからすると魔除けになりそうな置物。

 ゆくゆくは背中に乗って空飛ぼうとしてるのにさ。

 このまま成長しても落馬しそう。……顔は鳥だけど、乗る部分は馬になってるから落馬でいいんだよな?


 ともかくあのギロッと目はとても人を乗せるような目はしてないよ。いつか食ってやろうって目ぇしてる。鳴き声も「ほげえ」だし。渋いんだよな。


 でもアレでもまだヒナだしね。成長したら変わるかも。

 それに今でも十分最高な点がある。ヒナ特有なのか、羽毛がフワフワしていてあの目つきの置物状態でも可愛いのだ。


 特に首回りのモフッぷりったら。綿毛の襟巻しているみたいにモフモフでフワフワだ。風がそよぐとフワンフワン揺れてかーわーいーいー!!


「おーい、お嬢ちゃん。今日も元気にやっとるね」


 ん、聞き覚えのある声が……。畑を見回すと、ヒマワリが咲いているフェンスの向こうにすっかり見慣れたテントウムシっぽい丸い赤い物体が。


「ノームのおじいちゃん!」


 わあ、また土地もらえるのかな。今のところ、余裕は開けてあるから今すぐに欲しいわけじゃないけど、どのタイミングで来るのかわからないから、もらえるときにもらっとかないとね。


 軍手を脱いでポケットに入れると、小走りでノームのところまで行く。と、そこで彼がひとりじゃないのに気づいた。


「どーもー」

「こんにちはー」


 宙に浮く二匹の虫——いや妖精か? 


 フェアリーかな。トンボにそっくりの羽が背中から生えている。よく似た顔をした少年と少女だ。双子かな。どちらも金髪で、男の子のほうはパツンとしたおかっぱヘア、女の子のほうは細長いおさげの三つ編みが足のほうまで伸びている。瞳は緑色で鼻のあたりに、おなじようにそばかすがあった。


「お嬢ちゃん、がんばっとるから。知り合いを連れてきたよ。ふぉっふぉっ」


 髭もじゃをゆすってノームのおじいちゃんが笑う。


「わたし、シルフィーネ」

「ぼく、シルフ」


 二人は名乗ると、互いに手を合わせてくるくる回り出した。


 ピロンッ♬


【風の精霊シルフ&シルフィーネが素敵な踊りを見せてくれています。褒めますか?】


 ……素敵な踊りだったのか。くるくる回ってるな、とは思ってたけど。

 まさかここでノーはないだろう。初対面で失礼だしね。


「二人ともダンスが上手ですね!」


 ちょっと声を高めにして褒めると、くるくる回っていた二人は動きを止め、


「べつにあなたに見せるために踊ってたわけじゃないんだからねっ」

「そうだよ。ぜんぜん嬉しくないんだからね、勝手に見ないでほしいなっ」


 生意気な台詞とは裏腹に、ポッと頬をそめ、手を後ろに組んでモジモジしている。


 ピロンッ♬


【シルフとシルフィーネはあなたに褒められて恥ずかしがっています】


 ええっと……、コレって褒めて正解だったんだよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る