第47話 燃えるトカゲ、再登場

 長い長い時間、水中にいて息が続く生物。魚類。で、しゃべる。ここは幻獣、妖精、精霊が闊歩する世界……すなわち、夜中にメソメソびーびー泣いて住人を困らせているけどバンシーじゃないと言い張る存在は、


「人魚、マーメイド、セイレーン。さあ、どっれ!?」


 じゃっじゃーんっ、と効果音奏でる勢いで宣言したんだけど。


『わたしは人魚じゃなあああああい!!!』


 ざばあっ、と露天風呂から飛び出したのは。

 ……飛び出したのは?


「えっとーぉ、どちら様で?」


 というか、見えない。絶対に何かが飛び出した音がしたんだけど。勢い的に、水中からズバッと立ち上がっている、みたいな。でも見えない。いるような、いないような……? 人様にライトを向けるのは申し訳ないけど、よくわからないので、懐中電灯を直接向ける。で、まじまじ見て確認したものは。


「水柱?」


 ぼんやりうっすら人型に見えなくもない水滴の輪郭が見えるような見えないような……そこに誰かいます?


「あっ、わかった」


 ぽんっと手を打つ。今度こそ正解だろう。


「透明人間!!」

『ちっがぁあああああああううううう!!』


 外した。じゃあ何よ、もうっ。いい加減腹立ってきたな。


「どなたか知りませんけど、住居侵入ですよ、しかも泣きわめいて。迷惑迷惑」


 ぶー、ぶー。ピクシーたちと一緒に親指下げてブーイングだ。


『ひどい、つらい、かなしい。わたし、わたし……うわああああんっ』


 ——まーた泣き出したと思ったら。


「おだまり、ウンディちゃん。ダーリンが困ってるじゃない」


 ヒーローのように登場したのは手乗りサイズの小さなトカゲだ。露天風呂の囲いの上から「トウッ」と石敷きの床に着地する。そのボディはメラメラ燃え続けている。


「ダーリン、久しぶりね」

「あ、サラマンダーさん」


 ピロンッ♬


【火の精霊サラマンダーが、情熱のダンスを披露します】


 いや結構なんですけど……って始まったよ。


「サラサラ・マンダー、サラマンダー。サラサラ・マンダー、サラマンダー。 情熱のサラサラ・マンダー、サラマンダー♬』


 燃えるあたしはサラマンダー♬

 燃やす全身、情熱の炎♬

 あたしに触れたら、火傷するわよ♪


「サラサラ・マンダー、サラマンダー。サラサラ——」


 腰をフリフリ歌い踊るサラマンダーさん。なんとなく手拍子してあげてたんだけど。


『うるさいうるさい、うっるっ、さあああああい!!』


 バシャアア。

 サラマンダーさんにお湯をかける謎の侵入者。

 シュウウ……とサラマンダーさんの全身炎がやや弱まる。


「あらやだっ。あたしの情熱の炎が!!」


 横っ飛びして次の攻撃を避けたサラマンダーさんだけど。


『あっち行けっ、しっしっ、消えちゃえ』


 謎の侵入者が、まあお湯をかけるかける。そのたびに「はっ、よっ、ほっ」と避けてはいるサラマンダーさんだけど。


「ちょっ、バトル展開いらないんで。やめやめやめえええ!!」


 両手を広げて割り込む。で、まあそうなりますよね。


 バシャアア。

 はい、全身ずぶ濡れです☆


「ダーリン、大変。あたしのために」


 うるうる涙ぐむ燃えるトカゲのサラマンダーさん。


 いえいえ、そんな感動しなくてもいいですよ、って言ってるそばから、爆速で肩まで這い上ってきて、「ダーリン、ダーリン」頬ずりしてくる。あっつ……くはないんだけど絶妙に暑くなる体温なんだよね、サラマンダーさん。


『な、なな、なによなによ』 


 怒りの震え声を出す謎の侵入者。ぴしゃぴしゃとあちこちに水滴が飛ぶ。ピクシーたちどうしたかな、って見回すと、ヒッポちゃんも一緒にちゃっかり脱衣場の戸口まで避難してやんの。まあ賢いってことよね。


『誰も彼も……ぐぐぐっ、全員嫌いっ、大っ嫌い!!』


 ゴオオオオオ!!


 叫んだと思ったら、ものすごい勢いで水柱がっ。天に昇る滝じゃんっ。

 っていうか、うちの露天風呂がカラになるうううう!!!


 ピロンッ♬


【水の精霊ウンディーネがブチ切れています】


 ええっ、精霊さんだったの!?

 でも、すごく迷惑なんですけどっ。これって逆ギレですよね!?

 

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