第12話 搾りたてのニンジンジュース🥕

 雇うことになったピクシー、「ぴー」と「くー」と「しー」の三匹。

 寝床に箱のベッドでもこさえてやろうかな、と思ったんだけど……。


「小さいドアがついてる……」


 キッチンの壁に高さ30センチほどのドアが取り付けてあるのに気づく。緑色で黄色い丸い取っ手がついているやつで、結構存在感がある。で、その向こう側、壁の中でトンテンカン、ガタゴト……音がしていた。


 ピロンッ♬


【ピクシーたちが住まいを作っています。取り壊しますか?】


 えっ、いや壊さないけど……。一応、先に許可取ってほしかったなあ。まあいいんだけど。コンコンとドアをノックしてみる。すると「ギッ?」とピクシーが一匹顔を出す。エプロンのアップリケを見るとPの文字だ。


「ぴー、であってるよね?」

「ぴー!」と敬礼している。この子は敬礼するタイプなんだな。

 何か御用ですか、といわんばかりの顔に、「飲み物欲しいかな」と用事を頼んでみる。


「ピエッサー!」と返事するピクシーのぴー。で、ピロンッ♬


【ドリンクを選べます】


 ほうほう。ウインドウに選択肢が表示される。

 といっても二択だけど。

 ニンジンジュースに冷たい水。


「じゃあ、ニンジンジュースで」

「ピエッサー!」と敬礼。


 小さいながら運動神経抜群のようで、ぴょこぴょこ動き回り、あっという間にオレンジの液体が入ったグラスを運んできた。


「ありがと」

「ピエイッ」敬礼。飲んでみて、という眼差しに、では、と口をつけ……。

「ブハッ。え、マズッ。ただの搾り汁?」


 ニンジン丸ごと搾り汁ってかんじのジュースだ。でも仕方ないのかもしれない。だって材料は畑から採ってきていたみたいだし。よくある野菜ジュースってたぶんアレリンゴやオレンジがたっぷり入ってるよね。でもこの家に果樹はない。


 わたしの様子に、「ピッ」とオロオロと焦り出すピクシーのぴー。


「ご、ごめん。あんたは悪くないよ。ニンジンジュースはもっと畑が充実してから頼むね」


 で、飲む?とニンジンジュースを差し出すと、ぴーは「ピッ」と敬礼。うやうやしく受け取ると、飲みさしにもかかわらず嬉しそうにゴクゴク飲む。ふと視線を感じて見やると、小さい壁ドアから、二匹のピクシーが顔をのぞかせていた。


「あんたたちも飲む?」

「くー!」「しー!」


 たたたたっと駆けてくるピクシー二匹。そして三匹で一杯のニンジンジュースを回し飲みし始める。なんか健気ね……。


 畑を荒らしていた時は憎らしかったピクシーたちだけど、フリフリエプロンの効果もあってか、今はちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけど可愛く見えてくる。


「これからよろしくねー」

「ぴー」「くー」「しー!」


 敬礼、胸に手を当て忠誠、ゴマすりポーズで手をスリスリスリ……。


 🍃


 ドリンクの冷たい水はただ冷やした水だったけど、十分おいしかった。

 でもドリンクの選択肢はもっと増やしたい。


 庭に出てから、ウインドウのアイテム欄を眺める。

 レベルが上昇し、購入できる種類も増えてきていた。


「でもなあ……」


 植える場所がないんだよねえ。クエストの田んぼのことも気になるし。

 土地、どうやって増やすんだろう。


 ——って、悩んでいると。


「お嬢ちゃんお嬢ちゃん。畑、がんばってんなあ」


 ドキッ。え、何か来た!?

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