第56話 飛行のスペシャリストの熱血指導は前途多難?
ノームのおばあちゃんの紹介で、飛行のスペシャリストさんをトレーナーに迎え、ヒッポちゃん初飛行しましょう特訓、はじまりでーす。ぱふぱふー♬
「……ってそのスペシャリストさんって誰なんでしょうね。まだお越しになってないようですけど」
出来立てほやほやの訓練場で待つこと数分。ヒッポちゃんが地面をほじくりほじくり虫を探し始めたので、まったいらだった地面が、早くもデコボコの穴だらけになってきているのですが——おや? 何かが空を飛んできているような、いないような……?
「寝坊なんてしてないんだからねっ」
「ぜんぜん急いでなんか来てなんてないんだもんねっ」
おやおや。そういう割には必死に飛んできたのか、フウフウ汗を流している虫、じゃなくて妖精、いや風の精霊だったかな。
「シルフィーネさんとシルフさん! 久しぶりですね。お二人が建ててくれた風車、めちゃくちゃ便利で助かってます」
あれがあるとないとじゃ生産性が桁違いですよ。脱穀したり精米したり。
あと最近では水の精霊ウンディーネさんが何やかやあったお詫びとお礼のしるしにって、「枯れない水路」をひいてくれましたね。それにも風車の力を借りて水を汲み上げ、畑や田んぼに利用しておりますです。
「べ、べつに感謝して欲しくて建てたわけじゃないしねっ」
「よろんでくれてうれしいとか、おもってないんだかからねっ」
真っ赤になってくねくねして照れているけど、そこを指摘しちゃダメなんだよね、うんうん。君たち二人の扱いはわかってるつもりさ。
「それで今日はどういったご用件で?」
この二人もノームさんご夫婦みたいに温泉に入りに来たのかな?
「コーチになってあげなくもないの」
「どうしてもっていうなら、スペシャリストとして飛び方を教えてあげたりあげなかったり」
あっ、ノームさんご紹介の飛行のスペシャリストって、お二人でしたか!
そういやよく見たら今日の衣装はラフな格好してると思ったら、速乾素材のスポーツウエアですね。首にはタオル、シルフさんの手にはメガホンがあり、シルフィーネさんの腰に挟まっている本のタイトルを読めば、『羽があるなら誰でも3日で飛べるようになる、究極の指導法』とある。
あらーっ、ずいぶん気合入れてきてくれたんですね!
でもお二人とも、うちのヒッポちゃん苦手ですよね?
「べ、べべべ、べつに怖くないのっ」
「へっちゃらだもん。ぜーんぜん、怖くない怖くない」
むんっと胸をそらして堂々としている二人。でも足を見てください、10本に増えたのかってくらいガクブルで残像がすごいことになってますよ。
「ヒッポちゃん、ちょっとこっち来て。コーチを紹介してあげる」
地面を掘り返してやや遠くまで移動していたヒッポちゃんを呼び寄せる。ヒエッと互いに抱き合うシルフとシルフィーネさん。やっぱり怖いんじゃないですか。
「怖くない怖くない、かわいい小鳥ちゃんだもん」
「そうそう、空も飛べないヨチヨチベビーちゃんでしょ。でも今日は鬼コーチだからねっ、厳しくやるから覚悟するのっ」
「ほげー」
「ひいいいいいいい」「ぎゃああああああ」
あーあー、そんな遠くまで逃げなくても。おーいっ、戻って来て。上空うん十メートルくらい飛び上がり元々小さいのに点も見えなくなってしまったお二人。そんなんでコーチが務まるのかねえ。
🍃
「飛ぶのは簡単、こうやるのっ、こうっ」
「羽ブンブン、ほら、動かすっ、ブンブン」
熱血指導してくれているシルフとシルフィーネさん。でもヒッポちゃんは「ほげー」と鳴きながら、お付き合い程度に軽く羽を上下させるだけ。飛ぶ気ゼロだし、教わる気もゼロ。
「……というかお二人はその中から教える形でオッケーなんですか。若干こちらとしては良心が痛むというか」
「ぜんぜん問題ないし、このままで平気だし」
「良心が痛むとか意味わかんないし」
そ、そうかなあ。
お二人、ヒッポちゃんが怖いというので、安全地帯から指導してくださっているんですが。その安全地帯っていうのが鳥かごの中なのだ。
金色をしたそれなりに見栄えのする鳥かごを用意したけど、なんかなあ。カワイイフェアリーを檻に閉じ込めているの図に見えて仕方ない。
捕獲したわけじゃないですよ、この人たち自ら入ってるんでね。
「ほらっ、そこの鳥、羽を使うのっ。動かせ、ブンブン」
「鳥だろっ、飛べってば飛べっ。その羽は飾りなのかっ、ヘッポコめ!」
おやおやずいぶん強気に……。
「ほげっ」
ギロッとヒッポちゃん。ムカついたのかな?
「ひいいいいい」「ぎゃあああああ」
ドガシャンガシャン。鳥かごの中で頭やら肩やら盛大にぶつけている二人。
ちょっとちょっと背中の羽が曲がってますよ。ほんとこの調子で大丈夫かなあ。
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